(地独)大阪府立環境農林水産総合研究所の歴史は長く、1919年に「大阪府農事試験場」としてスタート。
その後、関連機関との統合や地方独立行政法人への移行等を経て現在の組織になった。
研究部は「環境」「食の安全」「水産」の3部門からなり、府内の環境と農林水産業を支える調査研究が日々進められている。
今回は、環境研究部で取り組んでいる「ミズアブによる食品残さ処理と飼料化」について、藤谷泰裕氏に話を聞く。
この研究は、アメリカミズアブの幼虫に食品残さを餌として与えて廃棄物を減らし、成長した幼虫を養殖魚向け飼料に活用しようというもの。
焼却処理に比べ二酸化炭素排出量を大幅に減らし、付加価値の高い製品を生み出すことでビジネスの確立を目指しています。
もともとは、畜産廃棄物を処理する目的で2013年から始めた研究です。
畜ふん尿は従来、堆肥化されることが多かったのですが、その需要が減少する中、新たな方法として昆虫に着目しました。
昆虫は、タンパク質源となる窒素の取り込み率が高く、少ない餌で成長。
最終的に飼料原料とすれば、健全な「窒素循環」にも貢献できると考えたのです。
アメリカミズアブは、温帯から亜熱帯にかけ広く分布し、日本には戦後間もなく定着しました。
「アブ」ですが、刺すこともなく、人畜無害です。
過去の飼料化試験から、幼虫は良質な動物性タンパク質としても活用が期待されていました。
牛ふんを処理させたところ、相当量の減量に成功。
さらに幼虫の分泌液の強い殺菌作用により、牛ふん中の大腸菌や真菌を減らせることも判明。
衛生的な処理を実現できる可能性を示してくれました。
この結果を受け、事業性を見据えて対象を食品残さにシフト。
環境省の2016年度「環境研究総合推進費」採択研究課題に選ばれ、本格的に研究を進めているところです。
これまでの研究で、幼虫に適した温度や幼虫添加密度、幼虫が好む残さの性状、成長した幼虫の飼料成分などを明らかにしてきました。
今は、将来的なビジネス展開を想定し、ラボレベルからスケールアップするにあたっての課題を一つ一つ克服している段階です。
実際の残さ処理にあたっては、処理規模に応じた必要な量の幼虫を継続して安定的に確保する必要があります。
生物本来の行動を、効率的かつ低コストで制御しなければならない点が一番難しいですね。
輸入原料(魚粉)の高騰に苦しむ養殖業界では、安定したタンパク質原料へのニーズが高い。
当研究では、未利用資源を活用して育てた環境に優しい昆虫を得られるとして、飼料メーカーからの関心も高く、すでに問い合わせが入っています。
「ビジネスとして成功する技術に完成させる」。これがわれわれの使命。
そのため、単に幼虫を生産して供給するだけでなく、大学等とも連携しながら、残さ処理の面でも、飼料原料としても、幼虫の持つ高い付加価値を明確化することに力を入れています。
価値が明らかになれば、幼虫に相応の価格がつく。
半官半民の機関であることを生かし、廃棄物業界と行政をつなぎ、ビジネス成立までの一連の流れをプロデュースしていく所存です。
循環経済新聞より