酷暑の東京で「五輪合宿」

今年の夏も終わってみれば、やっぱり暑かった。

 

東京五輪・パラリンピック開幕まで3年を切り、再認識されたのが暑さ対策の重要性だ。

 

競技団体は地の利を好成績につなげるべく対策に着手し、世界中からやってくる選手や観客を守るために官民挙げて知恵を絞っている。

 

 

 

東京都心で最高気温33.7度、平均湿度72%を記録した8月23日。

荒川の河川敷にマラソンで五輪を目指す女子13選手が集まった。

本番のスタート時間を想定し早朝に30キロ走を開始。

太陽が昇るにつれてじわじわ暑くなる環境下で、各選手の体の変化や耐性を調べる「測定合宿」の一幕だ。

 

日本陸連が呼びかけ、リオデジャネイロ五輪代表の福士加代子(ワコール)や今夏の世界選手権に出場した清田真央(スズキ浜松AC)らが参加。

計8日間の合宿中には男子選手3人も20キロを走った。

 

マラソンは夏は涼しい場所で練習するのが一般的だ。

だが、東京五輪のマラソンは女子が8月2日、男子が同9日。

日本は夏のマラソンには伝統的に強いが、近年の暑さは鍛えられたアスリートにとっても敵だ。

酷暑の中でも海外勢と戦える体作りを目指して昨年から東京合宿を始めた。

 

合宿では、2007年夏の大阪世界選手権のマラソンで5位に入った尾方剛氏(広島経済大陸上部監督)が男子選手に自身の経験を披露。

ゴール時の気温が33度で、85人中28人が途中棄権した過酷なレースを「1カ月は体がほてったままだった」と振り返り、日よけ付き帽子や給水を活用して自分に合った暑さ対策を見つける大切さを訴えた。

 

日本陸連の河野匡・長距離マラソンディレクターによると、自己ベストが2時間20分の選手のパフォーマンスは気温30度で5%(約7分)落ちるという。

今後も合宿を行ってデータを集める予定で「科学的な知見も駆使してパフォーマンスの低下を防ぎ、メダルを目指したい」と意気込む。

 

暑さ対策は屋外競技の要諦になりつつある。

7月末に神奈川県葉山町で行われたセーリングの日本代表チームの合宿では、国立スポーツ科学センター(JISS)の担当者がスポーツドリンクをシャーベット状にした「アイススラリー」を提供して回った。

思考力に影響を及ぼす体の内部の体温を下げつつ、激しい動きに必要な筋肉の温度は保つ効果があるという。

 

ウインドサーフィンRSX級の倉持大也(福井県体協)はこれまで海上ではぬるくなったスポーツドリンクを飲んでおり、脱水症状に似た状況も経験したという。

練習前や練習中にアイススラリーを飲んだところ、「体の中から熱がなくなっていく感じがした」と好印象。

JISSは選手の体温や体感を記録し、効果を検証する方針だ。

 

7人制ラグビー日本代表も7月下旬、東京都調布市で合宿を敢行。

1日2試合が想定される五輪本番を見据え、江東区内の宿舎をバスで出発し午前中に練習。

休みを挟んで午後も練習という3日間をこなした。

 

急な雷雨も多い時期だけに、ウェザーニューズのスタッフを招いて雨雲の見方を聞くなど準備に余念がない。

男子代表の小沢大主将(トヨタ自動車)は「良いシミュレーションができた。日本開催を強みにしたい」と前向きに話している。

 

一方、日本企業の間では暑さ対策のための技術開発が急ピッチで進む。

競技施設の周辺やマラソンコースには最新の設備が採り入れられそうだ。

 

パナソニックは東京大会に向けて、多分野で新技術の実用開発を進めている。

その一つが暑さ対策。

神奈川県藤沢市の工場跡地に整備した新街区のバス停留所で8月1日~9月30日の間、「グリーンエアコン」と呼ぶミストシャワーの実証実験を行っている。

 

昨夏もJR新橋駅前の広場に設置し、1年かけて改良を重ねてきた。

外気温に比べて体感温度で5度低いという実験機には、技術の粋が詰まっている。

最大の特徴は濡(ぬ)れないこと。

ノズルの形状を工夫し、空気と衝突させて噴霧することで、従来のミストシャワーの5分の1程度の直径20マイクロメートル以下の微細な粒子を可能にした。

 

屋外の場合、風が強いとミストが流れてしまうことも多かった。

ファンの送風によってミストを渦巻き状にとじ込め、涼しさを届ける工夫も施されている。

来年度中の実用化を目指しており、「コストやメンテナンスなど量産化の課題をクリアできれば」と担当者。

五輪会場での採用も働きかけていくという。

 

皇居の周りを走る内堀通り。横断歩道を挟んで路面の色がくっきりと変わる。

白っぽい道路は、路面温度の上昇を抑える特殊な舗装が施されている。

太陽光の赤外線を吸収せずに反射させる素材を塗った「遮熱性舗装」と、保水性の高い素材を塗ることで水を蒸発させて路面温度を下げる「保水性舗装」という技術だ。

通常より10度近く路面温度を下げられるという。

 

東京都が五輪開催が決まる前からヒートアイランド対策の一環で整備を進めてきた。

特殊舗装を計画する約136キロのうち、昨年度までに106キロを完了。

19年度末までに全て終える予定だ。

 

国土交通省も準備を進める。

昨夏にマラソンの瀬古利彦さんらが試走し、「普通の路面と熱さが全然違う」と好感触を得た。

マラソンコースが決まり次第、国道で整備を始める考えだという。

 

「緑で都市を冷やします!」。

キャッチーなコピーとともに日比谷公園に出現した緑の壁、これも国交省の実証実験だ。

9月24日まで設置され、壁面緑化の遮熱効果を調べている。

植物を置いた高さ2メートル、長さ20メートルのパネルとコンクリート壁と並べ壁際の体感温度などを比較する。

通常は壁から50センチ離れた距離で気温が1~2度違うという。

 

景観目的などで建造物で実用が進む壁面緑化だが、同省では競技会場や広場での利用を想定。

据え置き型や屋根型の実用化を検討し、来年以降も実験を続けるという。

 

1964年東京五輪は10月10日が開会式だった。

5~10月の間で幅広く検討され、天候や食品の安全管理の点から10月開催に決まったという。

 

半世紀の時を経て、プロ解禁、商業化が進んだ五輪は様変わりした。

欧州サッカーや米国プロスポーツのシーズン最盛期と重ならないように配慮され、おのずと7~8月に絞られる。

暑さ対策は現代五輪の最重要課題の一つとなっている。

 

 

 

日本経済新聞より

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この記事を書いた人

株式会社トリムはガラスをリサイクルする特許技術でガラスから人工軽石スーパーソルを製造しています。
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