松くい虫の被害にあい松枯れした木(被害木)を有効活用するため、長野県は、木質バイオマス燃料として再利用する試みに乗り出す。
被害木の処理はこれまで、被害の拡大を防ぐため、薬剤燻蒸(くんじょう)による伐倒処理が原則だった。
だが、細かく裁断してチップ化することで、木質バイオマスを使う発電所など、外部への搬出ができるようになる。
県の松くい虫被害は全国で最悪の被害量といい、事業化が進めば、防除にも資するとの期待が出ている。
松くい虫被害は、マツを好物とする体長約3センチのマツノマダラカミキリが、同約1ミリのマツノザイセンチュウをマツに運んでくることで発生する。
マツノザイセンチュウが樹体内に入り込んで増殖し、枯らせてしまうためだ。
試みは、近隣にバイオマス発電所がある場所などで実施する。
被害木を現場やその周辺で1.5センチ以下のチップにした上で搬出。
チップは、近隣の木質バイオマス発電所やボイラーの燃料として利用される。
これまで廃棄処分としていた被害木をエネルギーとして再利用できることが、最大のメリットだ。
県では初めての試みで、効果を検証した上で課題を洗い出し、事業化の可能性を探る。
同時に、他の地域でも被害対策として有効活用できるか検討する考えだ。
事業体としては、市町村や森林組合などの林業事業者、NPO法人などを想定しており、2地域での事業採択を予定。
それぞれ250万円を上限に補助するという。
県内の松くい虫の被害状況は、昭和56年度に初めて確認されて以降、被害量が年々増加し、ピークの平成25年度には約7万8千立方メートルに達した。
その後はほぼ横ばいで推移し、平成28年度の被害量は減少したとはいえ、7万3,085立方メートルと全国で最も多かった。
被害は51市町村で確認され、特に上田、松本の両地域振興局管内に集中している。
被害量はそれぞれ、全体の約3割に及び、特に、長野自動車道安曇野インターチェンジ(IC)―筑北IC間では、沿道の松林が一面に赤茶け、被害規模の大きさが際立っているという。
防除するには、マツノマダラカミキリを駆除する薬剤の空中散布と、切り倒した被害木をビニールでかぶせ、薬剤燻蒸する伐倒処理、被害前に薬剤を注入して予防する方法が採られる。
ただ、薬剤散布は健康被害を懸念する住民らの反対運動もあり、コスト面などから伐倒処理が一般的だとされる。
県森林づくり推進課は、これまで主に伐倒処理していた被害木の有効活用に期待をかけ、「松くい虫防除の新たな事業サイクルとして一つのモデルを構築したい」と話している。
【太田浩信】
産経新聞より