新技術で伝統塗料をおしゃれに―。
川崎市内の大学やデザイナー、金属加工会社などでつくる産学官の連携チームが、最先端の科学技術と職人の技を融合し、新たな漆製品の開発に取り組んでいる。
伝統工芸品である漆器を身近にし、文化の継承と発展を目指す。
プリンターから吹き付けられた漆に金粉を振りかけると、金属に細かな模様が浮かび上がる。
これまで熟練職人の高い技術と長い時間を要していた蒔絵(まきえ)の技法が、誰でも短時間で表現できるようになった。
ノズルが詰まらないよう分子を極小化した漆をプリンターインクとして活用する技術を開発したのは、チームのメンバーの一人、明治大の宮腰哲雄教授(有機合成化学)。
10年ほど前から漆の特性に興味を持ち、福島県の「小野屋漆器店」とともに応用研究を重ねていた。
川崎市多摩区に工場を持つ金属加工会社「末吉ネームプレート製作所」と宮前区のデザイン会社「モノプロデザイナーズ」もチームに加わり、川崎市産業振興財団がプロジェクトを支援。
これまで製品のベースとして一般的だった木材ではなく、金属に漆を吹き付け、現代的なデザインに仕上げた新ブランド「漆事(うるしごと)」シリーズを生み出した。
「漆事」シリーズは現在、酒膳「月(つきみ)」と食膳「凪(なぎ)」の2種類。
ステンレスに漆を塗り、金粉や金箔(きんぱく)で月見のイメージや桜の蒔絵を施した。
「月」はとっくりやちょこを載せておしゃれに月見酒を楽しみ、「凪」はすし膳などとして使える。
どちらも漆のつやが美しく、上品に食卓を彩る。
チームは今後、さまざまな展示会などに漆事シリーズを出品する予定で、現在は新製品「雅(みやび)」を開発中。
ステンレスにエッチングという手法で模様を彫り、漆と金箔を張ってより高級な製品をつくるという。
美しいのはもちろん、漆はいろいろな素材と接着でき万能性がある一方で、戦後は合成塗料に押され、国産漆の生産量は減少しているという。
だが宮腰教授は「合成塗料は限りある石油から作られている。漆は樹液を加工した天然素材。持続可能な社会を目指すことにもつながる。器を愛(め)でて長く使うような生活の素晴らしさを次の世代に伝えていきたい」。
神奈川新聞より