愛着ある里山の木を使って、こだわりのログハウスを――。
東京電力福島第1原子力発電所事故で全域が避難区域となっている福島県飯館村。
元教諭の菅野元一さん(66)とクニさん(64)夫妻が除染のため伐採された自宅の屋敷林の木材を活用した家造りに取り組んでいる。
飯館村では、家屋を取り込むように植えられた「居久根(いぐね)」と呼ばれる屋敷林を国が除染の一環で伐採した。
しかし、伐採後の木の処分は地権者である住民に委ねられ、多くの木材が行き場のないまま放置されている。
菅野さんの屋敷林のスギなど数十本が伐採されたのは2014年のこと。
クニさんは「先祖から受け継いだ大切な木が切られ、積み重なったまま。見るたびに悔しかった」と振り返る。
福島県での避難生活が長引くにつれ、村の自宅はネズミの被害や雨漏りが目立つなど老朽化。
改築を検討し、建設会社と協議していた際に思いついたのが伐採木の活用だった。
使用する木は樹皮を剥いだ上で、放射線量を測定して安全性を確認。
自宅の改修工事を今年春から進め、これまでにほぼ完成した。
室内に足を踏み入れると、豊かな木の香りが広がる。
「一つ一つ、みんな思い出の木だ」。
元一さんがいとおしそうに1本の柱に触れた。
「これは『将来、家の大黒柱にしたい』と約40年前に植えた。若い頃からずっと丹精込めて育ててきたもの」
飯館村は来年3月末、一部を除き避難指示が解除される。
今は避難先から週1、2回自宅に通う日々だが、解除されれば村に戻るつもりだ。
「訪れる人が山野草を眺め、落ち着いた時間を過ごせる空間にしたい」と元一さん。
愛情とこだわりが詰まったログハウスと共に、復興への一歩を踏み出す。
日本経済新聞(夕刊)より