価格500円前後で高機能の新商品が相次いで投入され、激しい競争が繰り広げられているシャープペンシル市場。
100万本の販売でヒット商品とされる中、「芯が折れない」をコンセプトとするゼブラ(東京都新宿区)の「デルガード」は販売が600万本を超えた。開発チームは芯が折れるという学生らの不満の声に真摯に向き合い、筆圧を吸収する新しいシステムにたどり着いた。
シャープペン市場は、販売本数が減少しているものの、販売金額は年々伸びている。
各社が売れ筋の新製品を相次いで投入する中、ゼブラは平成24年9月、技術面のハードルの高さから一度は商品化をあきらめた「芯が折れない、詰まらないシャープペン」の開発に再び挑んだ。
開発チームはまず、芯が折れる状況を把握するため、塾や学校で学生の行動を観察した。
人によって、ペンを持つ角度や筆圧がさまざまであることや、ノートの材質、マークシートを塗りつぶすなどの動作においても、芯の折れる状況が異なることに気づいた。
ペンの設計を担当した研究開発本部研究部の月岡之博・主任研究員は「ペンを落としたとき芯が折れるのはなぜか、ペンの内部で芯が折れるのはなぜか。
あらゆる課題の改善点を洗い出し、部品ごとに試作品を作った」と振り返る。
60案以上のアイデアの多くを試作し、商品化の可能性があるかの検討を繰り返した。
その結果、筆圧による芯の折れを防ぐため、垂直方向と斜め方向の力をそれぞれ吸収する機構の開発に重点を置くことになった。
垂直方向の筆圧に対しては、軸に内蔵されたばねが芯を上方向に逃して折れるのを防ぐ機構を採用。
斜めの筆圧に対しては、先端の金属部品が下方向に出てきて芯を包み込む機構にした。
加わる力の角度や強さに合わせて、2つの機構がそれぞれ自動的に作用し、芯が折れないように守る。
「それぞれ荷重や形の違うばねを用意し、その組み合わせを100通りぐらい試した」(月岡氏)。
平成25年秋、新技術を説明した役員会では「これは売れる」と評価された。
ゼブラでは、昭和52年に発売された、ボールペンとシャープペンの機能を1本にまとめた「シャーボ」の大ヒット以降、自社技術による高機能のシャープペンを市場に投入していなかったこともあり、社内からの期待が高まった。
研究開発本部商品開発部の小野陽祐氏もその1人。
「まだ完成品とはいえなかったが、改善すればすごい商品になる」と思ったという。
小野氏の役目は社内や消費者のモニターにペンの試作品を使ってもらい、ペンの使い方や書き心地などの評価を月岡氏に伝えること。
2つの機構の間に設置されただいだい色の緩衝材「Oリング」は、そんな社内モニターからの意見がきっかけだ。
「ノックして金属部分が動く際に聞こえる小さな音が気になる」という声に配慮し、これを防ぐために設けたもので、月岡氏は「結果的にデザインも良くなり、納得している」と振り返る。
また、行動観察では芯が出ていない状態から3回ノックしてペンを使う学生が多いことも分かった。
「2回のノックで折れないように対応すれば十分だと思っていた。すぐに3回でも折れないように改良した」(月岡氏)。
新商品は機構が自動で飛び出して芯を守ることから「デルガード」と命名された。
マーケティング面では、「もう、折れない。」と、デルガードの特徴をわかりやすく伝えるコピーを打ち出した。
社内では「もし、芯が折れたら消費者から苦情が出るのでは」などの意見もあったが、3回ノックした長さであれば折れないことを証明する追加のデータをそろえるなど、万全を期して市場に送り出した。
発売後、動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」などで新商品の性能が反響を呼んだ。
「芯が折れるということへの消費者の不満の大きさを改めて実感した」と小野氏。
開発チームがヒットの手応えをつかんだ瞬間だった。(鈴木正行)
■デルガード
筆圧や書く角度に合わせて動く新開発の内部機構を備え、芯が折れないシャープペンシル。
ゼブラが平成26年11月に発売し、累計販売数が600万本を超えるヒットとなった。
価格は486円。
軸色はホワイト、ブラック、ライトグリーンなど。
今年1月から、高級感のある素材を使った学生や社会人向けの「デルガード タイプLx」(価格は1,080円)を販売している。
産経新聞より