採取場でイチゴ栽培

 

自然の力で「大谷(おおや)ブランド」を再び輝かせる―。

 

宇都宮市は建材や装飾向けの「大谷石」の産地で知られる。

ただ、出荷額は年間約3億円と最盛期の30分の1程度に衰退し、新たな産業振興が課題だ。

 

そこで宇都宮市が目を付けたのが大谷石採取場跡地の地下水。

冷却・保冷性を生かし、夏秋イチゴ栽培と保冷倉庫の整備を支援する。“スマートコミュニティー大谷”を売り込み、地域活性化につなげていく。

 

 

 

かつては旧帝国ホテルなどにも使われていた大谷石。

宇都宮市大谷地区の石材産業はコンクリートの普及や建築ニーズの多様化などで需要が低迷。

労働力不足などもあり、従業員数は最盛期の1973年頃と比べ18分の1程度と斜陽の一途をたどる。

 

大谷石は軟らかく軽量で、耐火・耐震・防湿性を備える。冷却・保冷という特徴を持ち、ゼオライトを50%以上含有しているため消臭・腐食防止にも優れる。

大谷石採取場跡地は約250カ所、延べ床面積で約56ヘクタールに上る。

その9割にたまる地下水の平均温度は7―10度C。

宇都宮市はその地下水を冷熱エネルギーに転換し活用すべく支援体制を強めている。

 

その一つがイチゴ栽培で、冷熱エネルギーで株元の温度を15―25度C程度に保つことで、夏秋イチゴの生産を促している。

13、14年度に実証実験し、15年度に地元のファーマーズ・フォレスト(宇都宮市)が試験栽培に乗り出した。

16年は5月からCDPフロンティア(宇都宮市)を加えた2社が本格生産をはじめ、7月から収穫できる見通しだ。

 

一方の保冷倉庫は、農家や企業の農産物を保管して月内にも実証実験を始める。

今後3年をめどに、東北や北関東の農産物をいったん保冷し、付随するカット工程や物流機能などを一体で運用できるよう、カット野菜加工場や物流施設などを誘致する。

 

ただ、地域住民は現在も同採取場跡地にネガティブなイメージを抱く。

大谷地域で89年に相次いだ陥没事故は“負の遺産”として語り継がれてきた。

事故以降、大谷地域整備公社(宇都宮市)が約100カ所に地震計を設置して常時監視するなど、安全面を徹底している。

 

負のイメージを払拭(ふっしょく)するには常時監視に万全を期し、自然エネルギーを最大限生かす新産業の確立が欠かせない。

「冷熱活用を軌道に乗せて地域を元気にし、雇用の創出や地域振興につなげる」と宇都宮市の矢古宇克経済部長は熱く語る。

 

 

 

宇都宮市は15年度に産学官組織「大谷エリア創再生エネルギー研究会」(清木隆文座長=宇都宮大学准教授)を組織した。同研究会で、大谷地区の冷熱活用の有効性や課題の抽出、企業誘致の場所選定などを進めていく。

 

東京圏へのアクセスの良さを訴え、“大谷いちご”のブランド化や県内外の企業誘致が成功すれば、スマートコミュニティー(次世代社会インフラ)を核とする一大産業エリア実現に弾みがつく。

「大谷でのエネルギー地産地消は、全国で地方創生が叫ばれる中でも魅力的だ。多分野での活用に取り組みたい」と宇都宮商工会議所の刑部郁夫常務理事は意気込む。

【前田健斗】

 

 

 

ニュースイッチより

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

株式会社トリムはガラスをリサイクルする特許技術でガラスから人工軽石スーパーソルを製造しています。
世の中のリサイクルやエコに関する最新情報をお届けして参ります。

目次
閉じる