紙やプラスチックとアルミを併用したアルミ系複合材は、食品や薬などの包装材として幅広く使われているが、リサイクルが難しく廃棄処理されている。
このアルミ系複合材の資源化への道を開こうとしているのが、リサイクルシステム技術開発ベンチャー、アルハイテック(富山県高岡市)だ。
同社はアルミ系複合材からアルミを分離し、水素を作り出す原料として活用する独自技術を開発、検証プラントでの実証運転を4月から始めている。
次世代のクリーンエネルギーとして期待される水素を廃棄物から生成することで、廃棄物処理とエネルギー創出の「地産地消」化できるシステムが実用化されようとしている。
同社が開発したプラントでは大きく3工程を行う。
最初に、数センチの大きさに裁断した複合材を、水の入ったパルパー型分離機で攪拌(かくはん)して紙(パルプ)成分を分離する。
次に、残ったプラ・アルミ材を乾留炉で加熱処理すると、プラスチック成分はガスやオイルとして分離され、薄いアルミだけが残る。
このアルミを水素発生装置に投入、特殊アルカリ水溶液と連続反応させて水素と水酸化アルミを生成する。
各段階で出るパルプ、水酸化アルミはリサイクル原料として使える。
乾留炉で出るガスは加熱用の燃料として利用しており、オイルはA重油と同等の品質だという。
今回の検証プラントでは、分離機、乾留炉、水素発生装置をつなぎ、連続稼働している。
検証プラントの原料となるアルミ系複合材は、プラント建設地提供で協力した朝日印刷富山工場(富山市)が製造するアルミ系複合材の端材を用いる。
乾留炉では1時間当たり90キロのプラ・アルミ材を処理、水素発生装置ではアルミの連続投入で同じく2キロの水素を生成している。
アルミ系複合材が普及したのは、紙やプラスチックの間に挟み込んだアルミ箔(はく)が光や空気、水分を遮断、食品や薬、化粧品などの品質が安定保持できるためだ。
「アルミがない場合で数日~数カ月程度だった保存期間が、アルミ系複合材では数カ月~数年に延びる」とアルハイテックの水木伸明常務は話す。
こうした包装材は一般家庭から排出されるが、可燃物として焼却処理した場合、焼却灰のアルミ成分が冷却用水と反応し水素を発生させて爆発を起こすことが知られている。
また、紙成分が多い飲料用紙パックでは再生パルプ原料として回収される場合もあるが、プラ・アルミ材は産業廃棄物として埋設処理されるのが一般的という。
2013年10月設立の同社の前身は運送会社、トナミ運輸の環境部門。
2007年に大手製紙会社から、アルミ付き飲料パックの残渣(プラ・アルミ材)の埋設処理場を探してほしいとの要望が寄せられたことが、アルミ系複合材と関わるきっかけとなった。
「産廃の運送は任せるとのことだったが、コストや二酸化炭素(CO2)排出など環境負荷を考えると、残渣を産廃処理するのは何か違うのではないかと思ってしまった」と水木常務は振り返る。
ゼロからの調査・研究開発を通して、乾留炉によるプラスチックとアルミの分離に成功したが、薄いアルミは高温で燃えてしまい、インゴットにするのは難しい。
そこで、アルミ9キロから1キロの水素を生成できることに着目し、効率よく連続運転できる水素発生装置とアルカリ溶液の開発に乗り出した。
同社は並行して2009年度に環境省の支援を受け、富山市と金沢市、福井市でアルミ付き容器回収の社会実験を実施している。
今回の検証事業は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」(2014~2016年度)に採択され、2014年12月から実証用の乾留炉と水素発生装置の開発に取り組んできた。
連続処理のめどが立った昨夏にプラント建設に着手。
NEDOによる試算では、このシステムでアルミ系廃棄物を900トン処理した場合、一般家庭4,600軒分の月間使用量に相当する170万キロワット時の省エネ効果が得られ、CO2排出削減量は年間約1,200トンになるという。
プラント規模を変えて発電施設、水素ステーションなどに併設すれば、運搬コストが削減される分、水素供給価格も安くできる可能性もみえてきた。
「このシステムは投入エネルギーより水素、ガス、オイル、熱などの形で回収できるエネルギーの方が多いのが特徴」と水木常務は指摘する。
実証プラントは6月に、燃料電池車の走行距離換算で約700キロ分に相当する「1時間当たりの水素発生量5キロ」を達成する予定だ。
【日野稚子】
SankeiBizより