電力市場の構造を抜本的に変える「電力システム改革」の第2弾として、小売の全面自由化が4月1日に始まってから1カ月近くが経過した。
改革の第1弾で発足した「電力広域的運営推進機関」(広域機関)が小売全面自由化に伴う契約変更(スイッチング)の申込件数を毎週金曜日に更新している。
最新の4月15日時点のスイッチング申込件数は全国で68万3,000件に達した。
そのうち東京電力の管内だけで43万件もあり、全体の6割以上を占めている。
次いで関西の16万件が多く、2つの地域を合わせると86%にのぼる。
3番目に市場が大きい中部では3万件にとどまっている状況だ。
全国で電力を利用している家庭の契約総数(6,260万件)と比較すると、スイッチングの比率は1%強になる。
スイッチングを仲介する広域機関のシステムが3月1日に稼働してわずか1カ月半の実績である点を考えれば、順調に伸びていると見るべきだろう。
このペースで伸びていくと1年間に500万件に達して、スイッチングの比率は8%を超える。
ただし自由化が始まる直前の3週間(3月11日~31日)と比べて、自由化後の2週間(4月1日~15日)は伸びが鈍化している。
スイッチングに積極的な家庭の申し込みが3月中に一巡して、4月1日から安定した状態に入ったようだ。
当面は低めの伸びで推移していく可能性が大きい。
伸びが鈍化した理由の1つは、電力の購入先を変更するメリットが明確になっていない家庭が多いからだ。
特に電力の使用量が少ない家庭では電気料金の割引額が小さいこともあり、契約変更の手間をかける意欲は生まれにくい。
資源エネルギー庁が2015年11月に実施した調査の結果を見ても、自由化後すぐに電力の購入先を変更すると回答した比率は2.8%にとどまった。
そのほかに変更を前向きに検討する利用者が20.9%を占める。
こうした変更の意欲がある利用者を取り込むためには、もう一段のメリットを加える必要がありそうだ。
家庭を対象にした小売の自由化に注目が集まる一方、企業・自治体を対象にした市場でも自由化の効果がようやく表れてきた。
企業や自治体が利用する特別高圧・高圧部門は2005年度までに段階的に自由化を実施したが、東日本大震災の以前には新電力のシェアは3%程度に過ぎなかった。
震災によって電力会社の電気料金が値上がりした結果、割安な新電力に切り替える企業・自治体が全国各地で急速に拡大している。
最近の2年間の状況を見ると、2014年度には4~5%台だった新電力のシェアが2015年度には一気に6~8%台へ上昇している。
小売全面自由化に向けて新規に参入した有力企業の影響も大きい。
2016年2月には実際に電力を供給した事業者数は127社にのぼった。
電力の需要が増える冬のピークにもかかわらず、シェアは8.6%に拡大した。
1年前と比べて3ポイントも上昇している。
従来の新電力(特定規模電気事業者)は4月1日から登録制の「小売電気事業者」に区分が変わり、家庭向けの電力も販売できるようになった。
4月18日の時点では286社が小売電気事業者として登録を済ませている。
この中には電力会社10社も「みなし小売電気事業者」として加わった。
小売電気事業者に登録した286社を業種別に見ると、最も多いのはガス会社だ。
LP(液化石油)ガスと都市ガスを合わせて51社が登録している。
このほか再生可能エネルギー関連の開発・販売を手がける事業者も44社にのぼる。
ガス会社は電力とセット販売に注力する一方、再生可能エネルギーの事業者は地域で発電した電力を地産地消できる点をアピールして利用者の拡大を図る。
電力とガスのセット割引や再生可能エネルギーの地産地消のメリットを訴求できれば、家庭向けの市場でも全国でシェアを伸ばせる余地は大きい。
スマートジャパンより