東日本大震災の被災地では“攻めの農林水産業”への転換が進んでいる。
新たな技術やノウハウの活用で農水産品をブランド化し、高付加価値化や輸出拡大を図る狙いだ。
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を視野に、農林水産業の競争力強化が課題となる中、逆境をバネに新たな成長を目指す。
津波被害の痕跡が残る宮城県南三陸町志津川地区。
この漁場で、国内でも珍しい1年物の未産卵カキの養殖が進んでいる。
生産者の佐々木昇記さん(58)は「今年はかなり育ちがいい」と満足顔だ。
震災前、同地域の養殖カキは2年物が主流だった。
だが、津波被害から早期に出荷するため、2013年から養殖期間が半年程度の未産卵カキに切り替えた。
雑味のない独特の甘さにちなんで「あまころ牡蠣(かき)」と名付けられたこのカキは、今年の出荷見通しが2万個と前年の10倍に増えた。
冬場に旬を迎える一般のカキと違い、出荷は3~7月が中心。
5月からは通常の卸値の4倍近い1個約400円で、主に首都圏のオイスターバー向けに出荷される予定だ。
一方、津波で更地となった同県山元町では、震災後わずか2年で「1粒1,000円」と世界有数の高級イチゴの栽培が始まった。
手掛けたのは同町出身でIT企業を経営する岩佐大輝さん(38)が設立した農業生産法人GRAだ。
本業の情報通信技術(ICT)を活用し、ハウス内の温度や日照量などを自動管理。
糖度が標準的なイチゴの約2倍で、形や色が特に優れたものを「ミガキイチゴ」のブランドで販売したところ、2013年には大手百貨店で1粒1,000円の値が付き、昨年は香港などにも輸出したという。
TPP関連法案では、産地ブランドを保護する地理的表示保護制度(GI)の拡充が進む一方、今後は農家数の減少も懸念される。
岩佐さんは、知識や経験に頼らず、誰でも一様に栽培できるシステムを構築し、新規就農者や地域の雇用拡大につなげる考えだ。
「復興させるなら、震災前以上に発展する必要がある」と岩佐さんは意気込んだ。
【西村利也】
SankeiBizより