同じ成分で重さが数%の超軽量材料が自動車や航空宇宙用として出番を待っている。
軽いのは動物の骨に似て内部に無数の微小な穴が開いているからだ。
軽さ以外に、曲げや衝撃に耐える力が高い。
さらに異種材料の接合など新しい用途も見えてきた。
名古屋大学や米ボーイングは実用化に向けて開発を進めている。
「接着剤なしで金属と樹脂を接合できるようになる」と名大の小橋真教授は2015年に開発した技術に期待する。
厚さ2ミリメートルのアルミニウムの板の中に直径約300マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの穴を多数作った。
しかも穴が占める割合が板の表から裏に向けて90%から60%と徐々に減る。
アルミの粉末と塩を混ぜ、独自の加熱方法でアルミ粉末を溶かした。
冷却後に水に浸すと塩が流れ落ちて穴が残る。
アルミ板とプラスチック板を貼り合わせる場合、プラスチック側の気孔率を高くする。
アルミを加熱し、表面で溶けたプラスチックを穴の中に染み込ませれば、2枚の板は剥がれなくなる。
接着もリベットもいらない。
今年に入り、さらに新しい穴の開け方も開発した。
アルミ・チタン合金の中に直径数百マイクロメートルの大きな穴、その周囲を覆うように数マイクロメートルの小さな穴を数多く作ることに成功した。
アルミ粉末、チタン粉末、塩を混合して加熱し、冷却後に水浸した。
塩があった部分が大きな穴、もともと原料粉末の表面や内部にあった気体が小さな穴として残った。
小さな穴を通じて大きな穴に液状の蓄熱剤を出し入れする使い方を検討している。
自動車エンジンは運転中に高温になるため、冷却水を外側に循環させる。
一方、外気温が低い時にはエンジンの始動が遅い。
高温の蓄熱剤を蓄えた多孔質金属を設けておき、エンジン始動時だけ蓄熱剤を冷却水に混ぜて循環させるというアイデアを持つ。
小橋教授らは何種類もの技術を使い分けて多孔質金属を開発している。
穴の形を変えたり向きをそろえたりすることも徐々にできるようになってきた。
現在、コンピューターシュミレーション(模擬実験)の専門家である広島大学の竹沢晃弘准教授と組み、用途によって最適な多孔質構造の材料設計を進めている。
さらに企業に委託して3Dプリンターでアルミ、鉄、チタンなどの多孔質体を試作し、機械特性などを評価している。
圧倒的な軽さに挑戦する研究もある。
2015年10月、ボーイングが自社ホームページで紹介した超軽量金属が注目されている。
体積の99.99%が空気で、発泡スチロールより軽いニッケルだ。
言い換えるとニッケルは0.01%しかない。
ボーイングとゼネラル・モーターズ(GM)が出資する研究開発会社のHRLラボラトリーズ(カリフォルニア州)などが開発した。
紫外線硬化樹脂の上に穴の開いたマスクを載せる。
向きを操作できる4つの光源からマスクを通して紫外線を当て、樹脂を網目状に硬化させる。
網の表面に電気メッキでニッケルを付ける。
化学処理で樹脂を取り除くと、空洞のある細いニッケルの網になる。
ボーイングはニッケル以外に他の金属やセラミックでも超軽量材料の開発を進めている。
昨年10月には米航空宇宙局(NASA)のもとで、火星以遠に送る宇宙船用に開発を始めることも明らかにした。
米政府からの助成を受けていることもあり、今のところ海外との共同研究には慎重だ。
ただし開発メンバーのソフィア・ヤン研究員は「日本企業の高い生産技術は定評だ。実用化に向けて手を組むこともあるだろう」と言う。
【黒川卓】