国民一人一人に個人番号を割り当てる税と社会保障の共通番号(マイナンバー)制度に利用する個人番号カードの配布が10月に始まるのを前に、中小企業の経営者らがセキュリティー対応策に苦慮している。
法改正で個人番号の漏洩(ろうえい)・流出による罰則規定が強化されたこともあり、高額な金庫や監視カメラを購入するなど、支出増の要因となったケースもある。
「『個人番号の流出を防ぐには、生体認証の金庫にした方がよい』と業者に持ちかけられ、思わず飛びついてしまった」。
東京都内にある従業員50人規模の製造業社長はこう言って天を仰ぐ。
費用は100万円を超えたという。
マイナンバー制度が本格的に始動する来年以降、企業は従業員の個人番号を源泉徴収票に記載する必要がある。
こうした中で、個人番号の保管・管理の厳格化が求められていることを理由にした金庫の売り込みが活発化している。
政府は「個人番号が記載された書類は鍵のかかった引き出しに入れて管理しておけばよい。特別なことをする必要はない」と強調しているが、「どこまでセキュリティー対策を講じればよいのか分からず、中小企業は右往左往している」(経営コンサルタント)のが現状だ。
金庫の取り扱い業者によると、売れ筋はダイヤル式ではなく、静脈などを活用した生体認証付き金庫で、メーカー側も生産が追いつかず数カ月待ちの製品もあるという。
売り込みの動きが活発化しているのは金庫だけではない。
個人番号が管理された部屋の管理体制強化策として監視カメラや入退室管理システムを設けるケースも激増している。
企業がマイナンバーの管理に神経質になっている背景には、情報が漏洩した場合の罰則規定が強化されていることもある。
従来の個人情報保護法では、保有する個人情報が5,000件を超えない中小零細企業であれば適用外という位置付けだったが、マイナンバー法では全ての企業が対象になるからだ。
罰金など法定刑も強化されており、「個人番号の漏洩は企業の信用低下に直接的に響く」(コンサルタント)とみられている。
さらに“盲点”となっているのが個人番号が記載された書類やデータの破棄の義務化だ。
個人情報保護法には情報破棄が盛り込まれていなかったため、新たな対策が必要となっている。
「扶養控除等申告書」の保管期間は7年間で、退職者であっても7年間は厳重に保管し、その後、廃棄しなければならない。
書類をシュレッダーで裁断するケースもあるが、シュレッダー処理よりもコスト高の「薬品による書類溶解サービス」を利用する企業も増えており、新たな負担要因ともなっている。
政府ではセミナーなどを通じて「無理のない対策を講じてほしい」と企業側に呼びかけているが、現状では「間違いなく利益を圧迫している」(同)。
「マイナンバー普及拡大につながるような新たなビジネスを生み出してほしい」(福田峰之内閣府大臣補佐官)との思いが実を結ぶまでには、時間がかかりそうだ。
【川上朝栄】
SankeiBizより