キリンビールは、これまでより2割軽量化したビール用中瓶(500ミリリットル)を開発し、昨年11月から今後10年かけて既存の中瓶から新型中瓶に切り替えていく。
製造と物流の両工程を合わせて、年間930トンの二酸化炭素(CO2)排出量の削減が可能となり、軽量化による環境負荷軽減の取り組みを進めていく。
キリンは、包装容器の開発を専門に担当する「パッケージング技術研究所」で瓶類の軽量化なども進めてきた。
何度も洗って再利用するリターナブル瓶であるビール瓶について、大瓶は1993年に新技術を導入し2003年に全量軽量化を実現。
小瓶も1999年に全量軽量化しており、中瓶が最後の取り組みだった。
今回の軽量化では、瓶表面にセラミックスコーティングを施し、傷に強くさせることで、瓶の肉厚を薄くしても利用できるようにした。
この技術は日本山村硝子と共同で開発、厚さがわずか0.1マイクロ(1マイクロは100万分の1)メートルのセラミックスコーティングを、コーティング時の温度制御などで安定的に施すことができる。
同研究所の松島康之所長は「回収した瓶は熱アルカリ洗浄をするが、その際にコーティングがはがれることが多く、それが強度低下につながる」と説明する。
瓶は傷が入らなければ強いが、逆に「1カ所でも入れば、それが破損の大きな要因になる」中、均一な厚さでのコーティングが破損防止につながる。
また、コーティングされた瓶は滑りがよく、それが傷つきにくさにもつながっている。
特に充填(じゅうてん)工程でその効力が発揮される。
「かつては高速での充填というのはなかったが、今では1分間に800本、1秒間に十数本の高速充填を瓶でも行う」(松島氏)。
この工程で瓶同士が激しくぶつかることもある。
だが、セラミックスコーティングによる滑りのよさで、瓶に傷ができる可能性は大きく低減しているという。
単に瓶を軽量化しただけではない。
「軽量化によって、工場のライン工程ではハンドリングの難しさも出てくる」(同)からだ。
というのも軽ければ、それだけ高速で動くライン上では揺れやすくなる。
そこで取り組んだのが揺れにも強い瓶の設計。
瓶の胴径は1.5ミリスリム化。
裾部は半径を小さくしたが、その周辺は肉厚を確保した形状にした。
「これによって工場のラインで高速移動させても倒れにくい構造になっている」(同)という。
これらの改良で、中瓶はこれまでの470グラムから90グラム少ない380グラムに軽量化することができた。
実は、リターナブルのビール瓶では、瓶を共通使用しているアサヒビール、サントリービール、サッポロビールの3社も昨年7月に中瓶の軽量化を実施した。
これに遅れての技術発表になったが、松島氏は「3社は中瓶で10グラムの軽量化。キリンの技術を使えば、まだまだ軽量化できると信じていたし、事実、90グラムの軽量化を実現した」と自信をみせる。
環境負荷の低減を目指して進めてきた中瓶の軽量化だが、別のメリットも出ている。
1本当たり90グラムの軽量化だが、業務用で使う20本入りのケースで考えると約1.8キロに達する。
流通や飲食店などでは人手不足が問題視され、女性や高齢者の活用も拡大しているが、こうした人たちにとって、軽量化は「作業負荷の軽減にもつながることが期待されている」と松島氏は強調、人にも優しい軽量化となった。
【平尾孝】
SankeiBizより