地方の大学発ベンチャー(VB)へ投資する地域ファンドが拡大している。
地方銀行が主に資金の出し手となるファンドは地域資源の事業化を支援したり、地方大学の研究シーズを企業に結びつけたりする。
大学と連携して新産業を育成し雇用を創出して地方創生につなげる。
マイナス金利で投融資先の開拓を迫られる地銀の事情もある。
三方を海に囲まれた鳥取県境港市。
同市で育った漫画家の故水木しげる氏がか描いた妖怪の銅像が道端に並ぶ通りを抜けると工場が現れる。
2月に設立した島根大学発VB、なかうみ海藻のめぐみ(境港市、夏野慎介社長)の工場だ。
山陰合同銀行が中心に出資する大学発VBファンド「しまね大学発・産学連携ファンド」から9,000万円の投資を受けて、海藻を原料にした肥料を開発する。
夏野社長は「用途がなかった海藻の活用で地域経済を循環させて雇用を生み出したい」と意気込む。
鳥取と島根の両県では腐敗による水質悪化を防ぐため海藻を回収して肥料にしている。
海藻は肥料の3要素の1つであるカリウムを豊富に含みコメやナシに与えると味が良くなることは昔から知られ、細々と行われていた。
ただ取り出す効率が悪く、肥料化できる海藻は微々たるものだった。
同社は土壌分析で定評のある島根大の研究成果を取り入れることで海藻を肥料にする際の生産性や品質向上を目指す。
改良した肥料は地元農家に販売する。
5年後には売上高3億円を目指す。
なかうみのような地方大発VBを支援するファンドが全国各地に広がり始めた。
山陰合同銀は地域経済活性化支援機構(東京・千代田)と組み、島根と鳥取の両大学に関係したVBへの投資に特化したファンドを設立した。
総額は各10億円。
鳥取大VBでは14日、テムザック技術研究所(鳥取県米子市、檜山康明社長)に1号案件として8,000万円を投資し、内視鏡検査の訓練ができる医療教育用ロボット開発を支援する。
伊予銀行は愛媛大学と連携して愛媛大発のVBに投資するファンドをつくった。
総額は1億円。
同大学が強みを発揮する環境や水産関連の技術を基に設立したVBに出資する。
「大学が保有する特許などの知的財産権を(事業化という形で)地域に還元する」(愛媛大学)
神戸大学は起業して日が浅いVBを戦略的に支援する。
創業期のVBに500万円程度少額出資し、経営に深く関与して事業化を後押しする。
大阪大学など近年設立した大学発VBファンドは国の補助金を得て大学も投資する形が多い。
今回のような地方の大学発VBファンドの資金の出し手は地方銀行だ。
地銀の中小企業支援は従来融資業務が主体だった。
ただこうした融資主体の取引は壁に突き当たっている。
山陰合同銀行の石丸文男頭取は「山陰では企業数が30年で4割減った。新しい産業を生み出すには銀行もリスクをとらないといけない」と投資業務の必要性を強調する。
背景には日銀のマイナス金利政策で銀行が投融資先の新たな開拓を迫られているという金融機関側の事情もある。
課題も残る。
地方大は企業のシーズとなる技術や研究成果は東大や阪大などトップ大学と比べて少ない。
VB投資は幅広く目配りをするのが基本だ。
地方創生から特定の大学に傾斜したファンドにはおのずから高いリスクもつきまとう。
大学を起点に新産業を創出するサイクルを回し続けるには投資をきちんと回収するモデルを確立しなくてはならない。
地方大ファンドには都市部以上の高い目利き力と経営支援力が求められる。
日本経済新聞より