耕作放棄地となった谷津田(やつだ)と呼ばれる湿地帯にある水田を再生し、霞ケ浦の水質浄化や新しい農業モデルの構築につなげようと、NPO法人「アサザ基金」(牛久市南)のメンバーが株式会社「新しい風さとやま」(同)を設立した。
農家の高齢化や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の影響で農地の集約化が進められる中、条件が悪くほとんど見向きもされない谷津田にあえて焦点をあて、子供たちの体験学習や地域の活性化を目指す。
霞ケ浦流域には大きな河川がなく、流域に1,000以上ある谷津田は地下水が湧く重要な水源地となっている。
森に囲まれた湿地帯にあり、大型機械が入れないことや狭く日当たりが悪いなどの悪条件のため、谷津田の多くは耕作放棄地となっている。
耕作が放棄されると雑草や木が生えて乾燥化が進むほか、水田としての水質浄化作用もなくなり、霞ケ浦の水質悪化につながる。
また、目につきにくい場所にあるため、残土や産業廃棄物などの不法投棄も懸念される。
アサザ基金はこれまで、20年以上にわたり企業や学校、地場産業と連携して霞ケ浦の水質浄化や無農薬米の栽培、酒造りなどに取り組んできた。
だが、谷津田がどんどん耕作放棄地化されていることに危機感を抱いた。
高齢化した農家から「うちの田んぼも何とかしてくれ」などの声も相次ぎ、会社組織を立ち上げることにした。
新しい風さとやまは、谷津田で守られた水源地で「さとやま米」を栽培し販売する。
ホタルが舞いメダカが泳ぐ日本の原風景の中、完全無農薬で無化学肥料栽培という付加価値を付け、国内外の消費者にアピールする。
今年は牛久市と鹿嶋市で30年以上前から耕作放棄地となっている谷津田2.5ヘクタールを再生させ、コシヒカリを栽培する。
谷津田は一枚一枚が狭いため、少しずついろいろな品種の栽培が可能という。
同社では栽培面積を3年目には10ヘクタール、10年目には200ヘクタールに拡大することを計画している。
また、参加型里山農業事業として、市民や企業、修学旅行、外国人旅行者向けのエコツーリズムや「マイ田んぼ制度」、農家レストランなどを実施する。
地域の小中学校の総合学習の時間を使い、耕作放棄地から水田を復活させ、田植えや稲刈りなどを行う体験学習も計画している。
牧文一郎社長は「この事業が成功すれば農業はおもしろくなり、海外へ輸出しても注目される。谷津田は全国にあるので、地方創生のモデルにもなる」と話している。
【篠崎理】
産経新聞より