異常気象や気候変動は、野菜の成長に影響を与える。
半導体製造の生産プロセスやノウハウを活用することで、自然の環境変化を受けずに野菜の栽培ができるのではないかと、生産に取り組んでいる“野菜工場”がある。
神奈川県横須賀市にある東芝の「東芝クリーンルームファーム横須賀」のプロジェクトリーダーに話を聞いた。
「東芝クリーンルームファーム横須賀」は2014年9月に野菜の生産を開始した。
工場の延床面積は1,969平方メートルで、生産規模はレタス換算で年間300万株。
レタス2種類(フリルアイス、コスレタス)、ほうれん草、水菜、スイスチャードを無農薬で栽培する。
品目の種類および数は、生産開始当初と変わらない。
特徴は、大手電機メーカーとして蓄積した技術を注ぎ込んでいるところにある。
ICやLSIといった半導体や電子部品などの製造には、ホコリを極力取り除いたクリーンルームが使われている。
このクリーンルームを植物工場に活用することで、雑菌による傷みが少なく、長期保存が可能な野菜の生産を実現したという。
栽培に必要な照明や養液成分、空調を一括管理するICTや、照明、温度制御に用いるエアコンを含めて、社内にある技術を活用した。
「総合電機メーカーは、植物工場に向いています」と語るのは、東芝の植物工場プロジェクトチーム プロジェクトリーダー・松永範昭氏。
植物工場に関わる以前は、半導体製造の技術者であるプロセスエンジニアを務めていた。
この半導体時代に培った技術とノウハウが、現在の植物工場に応用されている。
半導体工場では、円板状のシリコンに電子回路を精緻に作り込んでいく。
製造工程は、回路を焼き付けたり、薬品で溶かしたり、シリコンを洗浄したり、と数多いが、プロセスエンジニアは、たとえば使用する薬品の量や濃度、作業時間など、各工程で最適な条件を追求して生産プロセスを作り上げ、良い製品を安定的に生産する役割を担う。
野菜の栽培についても、プロジェクトチームでは半導体の製造プロセスを作り上げるときと同じ方法論を採用。
野菜の成長の過程に応じて、気温・湿度・養液成分・照明などの最適な条件を追求し、生産プロセスを確立した。
松永氏は、「植物工場の勝負どころは、プロセス技術と生産管理技術だと考えていました。結果、良い品質の製品を提供できていると思います」と述べた。
雑菌の侵入や発生を抑制する生産プロセスを構築したことから、出来上がった野菜は洗わずに食べられるという。
「洗わないので、とれたてをかじったような味わいが残っているのです」。
松永氏は、これまでの取り組みを振り返り「60点」と自ら採点した。
当初、年間3億円の売上を目指すとしていたが未達成。
生産プロセス確立に注力した分、拡販への取り組みが遅れてしまった点などが減点の理由という。
販路自体は、徐々に拡大しつつある。
プラカップに入れたカット野菜を販売する「Salad Cafe(小田急百貨店新宿店ほか)」など当初から野菜を提供しているところに加え、新たにスーパーマーケットの「ピーコックストア(恵比寿南店ほか)」、「西友(平塚店ほか)」などへも提供している。
2016年は、さらに販路を広げるべく活動を展開するほか、他社に対して植物工場に使う機器やシステムの販売にも取り組む方針。
なかには、蛍光灯よりも植物の生育を促進する効果が期待できる植物育成用LED照明も含まれるという。
松永氏は、植物工場の将来は明るいと見ている。
「今はまだ目立たない存在だが、植物工場は必ず世界的に伸びていくと思います。露天での栽培は、異常気象や気候変動、水害などの影響を受けることもありますので、今後は、人工的な環境で野菜を作る植物工場が、ある程度求められるようになるのではないでしょうか」。
【具志堅浩二】
THE PAGEより