2010年09月27日
泥かぶら【中篇】
『もうやめよう。老法師様が
おっしゃった3つの言葉、
あんなことで私は良くなる
とは思えない・・・。』
泥かぶらが全身ボロボロ
になって、また丘の上の夕
陽を見ながら泣いていた時
の事でした。後ろからそっと
やってきた人がいます。
それは“こずえ”でした。
『助けてくれてありがとう。
本当に悪い事をした。
これは私の宝物だから、
あんたに、もらってほしい』
そして、自分が一番大事に
していた櫛(くし)を差し出し
たのです。
この時、泥かぶらは自分が
報いられたことを知りました。
生まれて初めての経験に、
泥かぶらは声をふるわせな
がら、こずえに言います。
『その櫛はいらないから、
その心だけでいいから・・・
どうかこれから私と、仲良く
して・・・』こずえは泣きなが
らうなずきました。
そして、泥かぶらの頭の泥
を払い、櫛で髪の毛をすいて
あげてかたわらの花を挿して
あげるのでした。
それからです。 泥かぶらの
人生が好転してしていったの
は・・・。村人たちの泥かぶら
への評価がどんどん良くなっ
ていきます。
そうなればなおさら、泥かぶ
らはお坊さんの3つの言葉を
さらに実践していきます。
喘息持ちの老人には山奥に
入って薬草を取って持ってき
たり、子供が泣いていたら慰
めてやったり、子守りをして
やったり、人の嫌がる事でも
ニコニコしながら次から次に
していきます。
すると、心も穏やかになって
あれほど醜かった表情が消
えてなくなっていきました。
村人のために労をいとわず
に働く泥かぶらは、次第に、
村人にとってかけがえの
ない存在になっていったの
です。
ところが、そんなある日、村
に恐ろしい『人買い』がやって
きました。
人買いは借金のかたに、一
人の娘を連れていこうとしま
す。
泥かぶらと同じ年の親しい
娘です。 『いやだ、いやだ』
と泣き叫ぶ娘の姿を見ていた
泥かぶらは、人買いの前に出
て自分を身代わりをしてくれと
頼みます。
こうして、売られていく泥かぶ
らと人買いとの都への旅が始
まります。
そんな時でも泥かぶらは、老
法師の3つの言葉を忘れませ
んでした。◎自分の顔を恥じ
ない。◎どんな時にもにっこり
笑う。◎常に相手の身になっ
て考える。
ですから、旅の途中、毎日毎
日、何を見ても素晴らしい、何
を食べても美味しいと喜びま
す。どんな人に会っても、その
人を楽しませようとします。
【後篇】へと続く・・・・。