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2006年08月08日

【国交省】熱都へはるばるクール

北海道の氷で、熱都・東京を冷やそうという実験がこの夏、東京都墨田区のオフィスビルなどを舞台に進められている。

電気エアコン全盛のこの時代に、なぜアナログな氷なのか。
貨物フェリーなどで約31時間。はるばる北海道から氷を運んでくる目的は―。

ザッブーン―。水槽に横付けした3㌧トラックの荷台から、氷が押し出された。ひとかたまりは1㍍四方で厚さ約40㌢。それが水槽に滑り込むたびに、高さ2㍍ほどの水しぶきが上がる。
墨田区のオフィスビル地下駐車場で先月末、北海道・苫小牧から約1,000㌔の距離を運ばれてきた氷を冷房システムの水槽に搬入する作業が公開された。

このビルは割安な深夜電力で製氷し、昼間の冷房熱源に使う「エコアイスシステム」を導入している。
水槽は約20㌧分の氷の冷熱(冷やすエネルギー)を蓄えるもので、機械式駐車場の一部を改造してつくった。冷やされた水は配管を通り、ビル冷房に使われる。20㌧分の氷で、このビルのオフィス約5万平方㍍を一日に冷やす冷房量のうち、約4%をまかなえるという。

実験は2005年度から2年間、国土交通省が約4億8,200万円の予算をかけて実施している。氷は今年6月から10月まで17回、計328㌧をここに運び込む計画だ。きっかけは2002年に北海道美唄市で開かれた「雪サミット」だった。夏の電力消費量のピークを緩和するため、北海道の雪を利用する話が持ち上がった。臨海部のオフィスビルを中心に氷の「受け皿」となりうる「エコアイスシステム」などが普及している東京が、輸送先に浮上。実験に着手した。

実験の目的の一つは、北海道が抱える「片荷問題」の解消だ。
東京から荷を満載してきた輸送車が帰りは秋の収穫期を除くと空荷のときが多い。その分、北海道に来る物資の値段が高くなる。空荷に氷を積むことで、この構造を改善しようという狙いがある。
東京側にとっても、冷房システムの氷をつくるエネルギーと排熱を減らせるメリットがある。
これは、二酸化炭素など温室効果ガスの排出削減や都市部の気温が上がるヒートアイランド現象の抑制につながる。最近は冬でも冷やす必要のあるオフィス機器が増えているため、氷の需要は年間通じてありそうだという。

北海道開発局の小松正明開発企画官は「実験結果を生かし、できるだけ早い時期に、民間ビジネスにつなげたい。うまくいけば北海道の物流、東京の環境という2つの問題を一挙両得、一石二鳥で解決できる」と話す。

実は明治時代、北海道の天然氷は東京、横浜などに輸送され、食肉保存や医療などの分野で使われていた“実績”がある。「函館氷」のブランドで全国的に知られ、最盛期には本州への輸送量は年間一万数千㌧に達したという。冷蔵庫の普及などで、そのビジネスは姿を消した。

北海道の雪氷を利用した食糧貯蔵技術の開発などを進めている大規模長期食糧備蓄基地構想推進協議会の小嶋英生事務局長は「北海道の氷が使われていたか不明だが、国会議事堂にも当初、天然氷を使った冷房システムがあった。自然エネルギーの活用は先人の生活の知恵。その知恵を今も生かすべきだ」。横浜国立大学大学院環境情報研究院・佐土原聡教授は「日本の気候は北から南まで多様なので、北の寒さを南の暑さ緩和に生かすことは大変望ましい。自然の理にかなった無理のない社会システムといっていいかもしれない」と大きな期待を寄せている。

東京新聞より

投稿者 トリム : 2006年08月08日 13:16