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2014年08月25日

大企業の休眠特許


大企業が開発した技術を中小企業が活用して、新製品を生み出している。

中小企業には技術開発の手間を省き、短期間で製品化できるメリットがあり、特許技術を提供する企業はライセンス収入が期待できる。

経済産業省によると、企業が保有する国内特許の約66%が未利用のままだ。
課題は、必要な技術に出合えるように、中小企業と大企業をどうやって結びつけるかだ。

福井県小浜市の伝統工芸「若狭塗ばし」を製造する株式会社、若狭塗センターは昨年12月、神戸製鋼所と抗菌技術の利用で合意した。
同社がメッキ技術を研究する中で生まれた特許で、若狭塗センターは病院や介護施設などで「抗菌はし」の需要があるとみて、来年の市販を目指し、開発を進めている。
近畿経済産業局が行った、企業間の必要な技術を結びつける「マッチング事業」の成果だ。

川崎市の自動化機器製造、マイスは4月、製造ラインで働く作業員がボタンを押せば、ネジやボルトが必要な数だけ自動で出てくる装置を発売した。
基本技術は日産自動車が作業員のミス防止や効率化のため開発し、自社工場で使っている技術。
2011年に特許を出願済みで、他産業でも応用可能だと判断し、有償で特許の使用契約を結ぶことにした。

従業員3人のマイスにとって「自社商品の開発は夢」(酒井高雄社長)だった。
装置の部品点数を減らすなど改良を施し、1台28万円で販売。
年間200台の販売目標を掲げ、建設機械、農業機械メーカーなどに営業している。
技術の紹介は、川崎市が行った。

川崎市は2007年から中小企業、大企業が参加する交流会を開いて、大企業が保有している使えそうな特許を紹介するなどの橋渡し役を担ってきた。
同市のマッチング事業は「川崎モデル」とも呼ばれ、札幌市など他の自治体も同様の事業に乗り出している。

経産省によると、2012年度の企業保有の国内特許150万件のうち、66.2%は未利用。
特許庁は他社でも利用できる特許3万5,000件をインターネットで公開しているものの、人員が少ない中小企業が、利用したい特許を見つけるのは難しい。
川崎市が強化しているマッチング事業でも、契約に至ったのは過去7年で20件にとどまる。

大企業では、事業再編によって従来分野の技術開発が必要なくなったり、次々と新しい製品を出すために、少し前の技術は使われなくなったりするなど、活用の場を失った「休眠特許」も多い。
眠らせておくのはもったいないと、社外での活用を模索している。

川崎市のプラスチック加工業、松本製作所は昨年11月、名刺サイズの芳香カードを発売。
香水などをカードに埋め込んだセラミックにたらし、名刺入れやポーチに入れると、香りが長持ちする。
富士通が、かつて女性向け携帯電話に搭載していた技術で、「休眠特許」だった。

政府は成長戦略で「世界最高の知財立国」を掲げ、7月に公表した知的財産推進計画でも、自治体などの取り組みを支援する方針を打ち出している。
特許活用に詳しい土生(はぶ)哲也弁理士は「中小企業の立場に立ったマッチングを地道に続けていけば、産業育成の有効な手段になる」と意義を語る。
【高橋直純】

【特許】
個人や企業が発明した技術や考えを、一定期間、独占的に使用できる制度。
特許庁の審査を通過する必要がある。
審査通過後、特許料を納付すれば、出願から最長20年間は権利が保護され、他者が勝手に使うことはできない。
他者に譲渡することや、利用を許可して使用料を得ることはできる。

毎日新聞より

投稿者 trim : 2014年08月25日 21:33