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2014年07月16日

6次産業化もうかる農業へ


「私は秋田の農家の長男坊。ぜひ一度来てみたかったが、来てよかった」

今月5日、兵庫県北部の養父(やぶ)市を菅義偉(すがよしひで)官房長官が訪れた。
人口2万6千人ほどの過疎の市を訪問したのには訳がある。

3月に、新潟市とともに政府の国家戦略特区で「農業特区」の指定を受けたからだ。
市や農業関係者と会談した菅長官は、政府が目指す「攻めの農業」を実現しようとす 改革への強い意欲を感じ、満足げな表情を浮かべた。



既得権益にまみれ、改革への抵抗が根強い“岩盤規制”。
「農業を効率的な産業にするには企業参入が大事だが、日本の農政は企業を入れないようになっている」。
グループ企業が市内で植物工場を運営するオリックスの宮内義彦シニア・チェアマンがこう指摘するように、農業は岩盤規制が残る代表産業とされる。

養父市は、特区指定によってこの岩盤規制に風穴を開けようとしている。
目玉は、市農業委員会が持つ農地の所有権移転などを許可する権限の市への移譲だ。
「“よそ者”の参入を排除しがち」(関係者)ともいわれる農業委に代わり、市が権限を持つことで手続きを迅速化。
個人や企業など意欲的な農業の担い手を呼び込む狙いだ。

特区指定後、一時は権限を奪われることに反発した市農業委だったが、「特区をチャンスとして農業振興に努力する」(大谷忠雄会長)と、6月27日に同意に転じた。

これを受け、養父市の農業特区は7月下旬にも国や市、民間事業者による区域会議が発足。年内にも事業が始まる見通しだ。

養父市の人口はこの10年で1割以上減った。

農業従事者の平均年齢は2010(平成22)年時点で70.7歳と全国平均の65.8歳を上回る。
市内の農地約2,600ヘクタールのうち耕作放棄地は12年で約226ヘクタールと、08年から倍増した。

「このままでは農地が荒れ、市の存亡にかかわる」。
危機感を抱いた広瀬栄市長が望みを託したのが農業特区だった。

市が特区で描く農業モデルは農業(1次産業)、加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)を掛け合わせた「6次産業化」だ。

このため農業委の権限移譲だけでなく、農業生産法人の設立要件を緩和して企業が農業に参入しやすくしたり、農地法では田んぼや畑などにしか使えない農地でレストランを開業できるようにしたりする。

特区でパートナーとなるのが、愛知県田原市の農業生産法人「新鮮組」だ。
「蛇紋岩米(じゃもんがんまい)」に朝倉山椒(さんしょう)、轟(とどろき)大根といった養父の地元食材を使った「ふるさと弁当」の事業化に挑む。

岡本重明社長は「米価は60キロで1万円強だが、おにぎりにした途端、1個100円としても14万4千円になる。
付加価値をつけ、もうかる農業を実現することが重要だ」と6次産業化の意義を強調する。

市の全額出資会社「やぶパートナーズ」も6次産業化の担い手だ。
東京に特産品を使ったアンテナレストランの出店を検討し、「地産外消を目指す」(社長の三野昌二副市長)という。

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の進展次第で農産物の貿易自由化が進むとみられ、国内農業を守るには競争力強化が不可欠だ。
とはいえ国土の約7割は中山間地域が広がり、限界集落と呼ばれる地域も少なくない。

農林水産省によると、全国の農業就業人口は13年時点で239万人で、ピークの1960年(1,454万人)に比べ16.4%にまで減少。
2010年の耕作放棄地は40万ヘクタールと1995年から約1.7倍に増えた。

養父市も面積の8割を山林が占め、農家減少と高齢化、耕作放棄地の拡大に悩む典型的な過疎地域だ。
広瀬市長は「恵まれた環境ではないからこそ同じ悩みを抱える中山間地域の農業再生モデルになる」と話す。
国内農業の将来をも左右する挑戦がいよいよ始まる。

産経新聞より

投稿者 trim : 2014年07月16日 15:43