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2014年02月08日
“スマホ液晶で世界一”
iPhone(アイフォーン)5sをはじめとして最新のスマートフォンなどで使用される液晶パネルは「ジャパンディスプレイ」(本社・東京、大塚周一社長)の製品がほとんどだという。
千葉県茂原市にある、最新ラインを備えた主力工場は、日本の製造業復活の可能性を示している。
同社はソニー、東芝、日立製作所の中小型液晶パネル事業を統合し「日の丸液晶会社」といわれる。
官民ファンドの産業革新機構が2千億円を出資して株式約70%を保有。事業を始めたのは平成24年4月で、異例の早さで上場を目指していると伝えられる。
茂原市は房総半島のほぼ真ん中に位置し、人口9万人の地方都市。
最先端技術でしのぎを削るメーカーがこの地を選んだのはなぜか―。
3日に茂原市で開かれた成田空港活用協議会のビジネスセミナーで同社茂原工場の引場正行工場長が20分ほどの講演を行い、答えを明かした。
「成田空港、羽田空港、東京の3拠点とすべて1時間以内で結ばれている」
商談で海外から訪れる顧客を本社と工場へ。
製品などを一刻も早く後工程の工場があるアジア各地へ空輸する。
その地の利を考えたからだという。
もっとも工場を一から建てたわけではない。
パナソニックから取得したときはテレビ向け液晶パネル工場だった。
これを中小型液晶用に1年弱で設備を改めて25年6月から稼働を始めた。
引場工場長は改装までのスピード感を強調するとともに、「常務、専務とか副部長とか副課長とか一切いない。フラットで風通しのいい会社」と説明した。
1980年代に世界を席巻した日本の半導体。
新興国の追い上げなどで今は見る影もなく、日立など3社による統合会社エルピーダメモリは経営破綻した。
その轍(てつ)を踏まないように、親会社とのしがらみを断っているという。
大型テレビなどと違い、中小型ディスプレーは日本メーカーが韓国、台湾勢と勝負できる分野だ。
同社の平成24年の世界シェアは首位だというが、激しく追い上げられている。
「みなさんお持ちのスマートフォン、タブレットのほとんどは私どもの製品ではないかと思います」
基本的な性能で差がつきにくくなっているスマホは、タッチパネルがその評価を分ける。
画面の見やすさ・美しさ、操作性、省電力、薄さ―。
旧3社の強い分野の技術を持ち寄って製品を作っていると自負する。
1つの例が「ホワイトマジック」という低消費電力化の新技術だ。
NTTドコモの2013~2014冬春モデルの「ARROWS NX F-01F」(富士通製)にも搭載されている。
これまでの液晶はRGB(赤緑青)という3原色を表示する方法だった。
これに白を表現できる画素を加えて明るさをだすようにした。
それによって電力消費を抑える。
つまり、電池が長持ちするということのようだ。
「高性能の液晶ができる世界でナンバーワンの工場。技術と規模の両方でグローバルの競争ができる」
茂原工場のラインは第6世代と呼ばれるガラス基板を使う。
強みは各大手メーカーのさまざまな要望に応え、短時間で納品できるようにしていることだ。
「毎日、毎日、需要が変わっている」
競争に勝つには「1日でも1時間でも早く」。
そして、それには首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の延伸も必要だと訴えた。
茂原市から成田空港方面へは圏央道の松尾横芝インターチェンジまで行き、そこからは一般道だ。
成田空港近くの大栄ジャンクションまで開通すれば時間はさらに短縮される。
圏央道と成田空港―。
千葉県にあるインフラ(社会基盤)を活用してビジネスチャンスは広がっていく。
ただ、地元出身のある企業の幹部はこう漏らしていた。
「優秀だった同級生で日立茂原工場に就職したのがいたけど、西日本の工場へ配置転換され、そのうえ辞めることに。今はそれまでの技術を生かせる仕事には就けていませんよ。でもジャパンディスプレイがきていなかったらもっと大変なことになっていました」
日立の茂原工場はかつて半導体、テレビの量産で日本の製造業の一翼を担い、地域も潤した。
しかし、この10数年の間、日本の電機産業の不振を象徴するように、工場の半分は日立ディスプレイから電機大手の合弁会社、パナソニックなど経営母体がめまぐるしく変わった。
人員整理もあって地元は翻弄された形だ。
茂原市から12億円もの補助金を受けながら平成23年にパナソニックが撤退したことは地元からみれば唐突で衝撃をもたらした。
そんな中でのジャパンディスプレイの進出と稼働は「かなり光がさしてきた」(茂原市幹部)と受け止められている。
工場改修を行っていた1年ほどの間は作業員の宿泊などで市内のビジネスホテルが満杯だったという。
同社と市側の意思疎通もパナソニックのときとは違ってスムーズに進んでいるという。
いくつもある電機メーカーがそれぞれやっていても海外勢と互角に戦うのは難しい。
茂原市幹部も「シャープは加わっていないけれど、オールジャパンなのは心強い」と手応えを感じている。
事業の統合、経営の意思決定、地元との接し方…。
これまでとは違う何かが可能性を示唆しているように思えた。
【千葉総局長 羽成哲郎】
産経新聞より
投稿者 trim : 2014年02月08日 16:02