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2013年07月14日

地熱発電推進

原発再稼働と並行して、国内では再生可能エネルギーの模索が続く。
だが、決して平坦な道ではない。

福島県会津地方にそびえる磐梯山の麓。
初夏を迎えた今月2日、猪苗代町のある温泉旅館をスーツ姿の男性2人が訪れた。
食事を終えた2人は、食堂で宿主の男性(58)と向き合った。
「せめて調査だけでもさせてください」。
宿主が「一度始めたら元を取るまでやるでしょ。途中で引き返したりしますか?」と尋ねると、あいまいな返事しか返ってこなかった。


2人は磐梯朝日国立公園で計画される地熱発電の開発企業担当者。
福島県の7市町村、300平方キロ超に及ぶ地域で泉質や地質を分析する地表調査に向けた“地元対策”だ。
戸別訪問は、協議が難航している裏返しでもある。

宿主は担当者に誠意は感じた。
それでも「代々受け継がれてきた温泉にどんな負荷がかかるか。一度スタートしてからでは遅い」との思いは変わらない。
参院選公示後は「再生可能エネルギーへの転換」を訴える選挙カーが近くにも来た。
「政治家はダメなら代わればいいが、われわれにとって温泉に代わるものはない」

国内の地熱資源は世界3位の2,347万キロワット。
うち8割以上は国立・国定公園にあるが、これまで建設された地熱発電所は18カ所、出力約52万キロワットと原発1つに満たない。
こうした中で昨年3月、当時の民主党政権は地熱発電推進を表明。
環境省も国立公園で条件付きの掘削を認め、磐梯朝日では国内 最大の地熱発電所建設を目指すという。

だが、地元の反発は根強い。
調査対象エリアの福島市・高湯温泉は自然湧出泉のため、地域での掘削を禁止している。
旅館「吾妻屋」の遠藤淳一社長(58)は「地熱発電は地域事情も関係ないのか。一方的に進めるのであれば計画を白紙に戻してほしい」と主張する。
事業者側は「地熱発電で温泉が枯渇した例はない」(国際石油開発帝石・安達正畝シニアコーディネーター)と話すが、両者の溝は深い。

「地熱は再生可能エネルギーの中で最も有望な技術だが、課題は残る」。
地球環境産業技術研究機構の秋元圭吾主席研究員(43)はそう指摘する。

エネルギーは、(1)安定供給(2)経済性(3)環境負荷の3点を考慮する必要があるという。
地熱以外にも、太陽光や風力といった再生可能エネルギーへの期待が高まる。
だが、欠点のない万能なエネルギーはない。

現在、火力発電がフル稼働で電力不足を補っているが、安価な燃料として注目されるシェールガスも、米国産が入ってくるのは4年後だ。
秋元氏は「特性を踏まえた組み合わせが重要で、今、原発ゼロという選択は危険」と指摘する。

現在国内で稼働している原発は、関西電力大飯原発3、4号機のみ。
8日に施行された原発の新規制基準には、4電力会社の6原発12基が審査の申請を行ったが、年内の再稼働は難しいとの見方が有力だ。
だが、厳格な審査を行った上で早期の再稼働がなければ、国民生活に大きな支障が出ることは避けられない。

「経営効率化を進めているが、乾いた雑巾を絞る状態だ」と嘆くのは、電気炉メーカー「JFE条鋼」の庄野俊治専務(61)。
電気で鉄スクラップを溶かし、車の部品や建築物の鉄骨などとして再利用しているが、製造コストの約3割が電気代に消える。

米国や韓国は日本の半分以下の電気代で鉄を作っているといい、「国際競争で太刀打ちできなくなる」(庄野専務)。
「鉄は国家なり」といわれた時代もあるほど、国力の象徴だった鉄鋼業界がピンチに立たされているのだ。

みずほ総合研究所のエコノミスト、徳田秀信氏(29)は電気料金の値上げについて、「企業にとっては7%の法人増税や10%強の円高に匹敵する負担」と分析。
製品価格にも転嫁されるため、一般家庭では電気料金の値上げと合わせて1カ月で実質約3千円の負担増につながるという。
平均的な家庭が貯金に回す額の約3割に当たり、「無視できない影響」(徳田氏)が生じ始めている。

原発の新規制基準が施行された8日。
原子力規制委員会が入居する東京・六本木のビルの前には原発に反対する団体など約80人が集まった。
反原発を掲げる政党ののぼりもあったが、参院選候補者の姿はなかった。
【伊藤弘一郎、蕎麦谷里志】

■再生可能エネルギー
使う以上に自然の力で生み出されるエネルギーの総称。
太陽光や風力、地熱のほか、家畜の糞や生ゴミを利用するバイオマスなども含まれる。
資源に限りのある石炭や石油、天然ガス、ウラン燃料などを使う火力や原子力が現在のエネルギーの主流だが、資源が少なく9割以上を輸入に頼る日本では、再生可能エネルギーの活用は不可欠とされる。
しかし、発電コストが高く、エネルギー全体の1.6%にとどまっている。

■地熱発電と国立公園
火山地帯などでマグマが浅い所へ上がる地点まで穴を掘り、蒸気でタービンを回す発電方式。
昭和41年に運転を開始した松川地熱発電所(岩手県八幡平市)が日本初。
国立公園では保護が必要な「特別地域」の外から斜めに掘り進む方式は認められていたが、環境省が昨年、地元の合意や環境影響を最小限にとどめるなどを条件に「垂直掘り」も容認した。
調査から発電まで10年程度かかるほか、掘削しても地熱貯留層に当たらない可能性もある。

産経新聞より

投稿者 trim : 2013年07月14日 16:09