« 「移動式バイオ発電」 | メイン | エコキャップ運動を実施 »

2013年04月07日

電気船「あまのかわ」


エコブームを背景に、排ガスゼロの電気自動車が注目される中、大阪市中心部を流れる大川に、電気で動く船が登場した。

「クリーンで快適な船旅を」をキャッチフレーズにした「あまのかわ」。

地元の専門家チームが開発し、大阪水上観光の「足」として活躍が期待されている。



船のデザインや乗り心地、中の様 子を探るべく、乗船体験してきた。

乗船体験の出発地点は、京阪天満橋駅に隣接する八軒家浜船着き場(大阪市中央区)。
現れた電気船は、未来型というべきなのか、角張っていて、屋根が低く平べったいという印象。
横から見ると背の低い新幹線の車両のようにも見えた。

船体は、後方部に虹が描かれているほかはいたって白くシンプルな外観。
取り外し可能という客席の窓ガラスはすべて外され、風通しはかなりよさそうだ。

 いざ乗船。地下へ降りるように階段を下りて客室に入り、席に着いた。
窓から外をのぞくと水面がすぐ下にある。

船は上流に向かってゆっくりと進み出した。
思ったより速度は遅い。
ただ、沿道のサクラ並木がちょうど見頃だったので、かえってよかった。

しばらく進んだところで下流へと方向転換した。
モーターの音は聞こえるが、船が進むことで生じる波音も聞こえるくらいの静かな音。
モーターで動く船というよりは、手こぎ船の印象に近いかもしれない。
のんびりと、ゆっくりと、のどかな景色をながめながら、元の場所に戻った。

「あまのかわ」は、電気船に関する研究グループや関係業者などでつくる「大阪電気推進船研究会」(会長、南繁行・大阪市立大教授)が開発した。
世界でも珍しいリチウムイオン電池式で、バッテリーは研究会メンバーの三菱重工製。
同じくメンバーの造船会社「ツネイシクラフト&ファシリティーズ」を中心に完成させた。
昨年10月から試験運航を開始し、今年4月初めからは観光船として本格運航している。

船は全長15メートルで幅3.2メートル。
定員は42人。
船体はアルミニウム合金製で、重さは従来型のディーゼルエンジンの船に比べて4分の1ほどの約7.5トン。
時速は最大6ノット(約11.1キロ)と、こちらは従来型よりやや遅めだ。
操縦はタッチパネルモニターで行い、照明にはLED(発光ダイオード)を使用するなど、船内はハイテクでエコな装備が並ぶ。
これらを動かす電力は、屋根の上に設置されたソーラーパネルの発電でまかなっているという。

船の側面入り口付近に電気プラグ受けを発見。
これが充電に使われる。
陸に横付けした際に陸上の電源から供給するのだ。
将来は川沿いの店舗などからの電源供給も見込まれるという。
それにしても、この電源プラグ受けは家庭用より少し大きい程度で、船を動かすことを考えると小さく感じた。

「あまのかわ」は、リチウムイオン電池を搭載したことで機能が大きくアップした。
鉛電池を使用した電気船は8時間の充電で45分稼働するのに対し、「あまのかわ」は1時間の充電で6時間稼働できる。
ほとんど前例がない分、注目度も高いそうだ。

「リチウムイオン電池は日本が生み出した技術。だから、船に取り入れる特許を早く取得したかったんです。でないと、外国に先を越されてしまいます」

プロジェクトチームの中心人物で電気船クルーズを運営する「伴ピーアール」の社長、伴一郎さん(53)はこう話したリチウムイオン電池の観光船への実用化は世界初という。
目的は達成した。

客席に座ると、扉、柱、いす、窓枠…と船内は見渡す限りアルミ一色だ。
ただひとつ、テーブルだけは木製だった。
手が冷えないようにとの配慮だという。

ここまでアルミにこだわったのには理由がある。
リチウムイオン電池は熱に弱く、50度以上で不安定になる特性があるからだ。
川の水によりある程度は温度上昇を抑えられるが、熱伝導に優れるアルミを用いることで、船全体から熱を放出しやすくなるという。

もうひとつ驚いたことがある。
水面から船底まで約50センチと浅いことだ。
これにも理由がある。
大阪市から淀川を上って京都に向かうと、府境付近が浅くなっている。
ここをスムーズに通れるようにと、江戸時代に大阪と京都を行き来した三十石船をモデルにしてつくった。
一方、安定感がないという三十石船の欠点を克服するため、通常は後部に1基しかないモーターを前部にもう1基取り付けた。
これでバランスがよくなり、小回りがきくようになったという。

「以前の大阪の川は汚くて臭かったから、古い観光船は、外の空気が入らないようにできている。だが最近はアユも上ってくるくらいきれいになった。匂いも全然ない。だからこそ、さわやかな風が通り抜け、水音も聞こえるこの船が生きてくる」

伴さんはこう話す。
船やヨットに乗るのが大好きな伴さんは、川や海がきれいになると最初に魚、次に鳥が来て、最後に人間が集まってくることを何度も見てきたという。
それゆえに、水環境への関心が高い。

「川は女性と一緒。見られることできれいになる。きれいになると人々の川への意識も高まる。重油(ディーゼルエンジン)の船は排ガスを川にまき散らし汚染しているので、この船ができたことで、行政も電気船への入れ替えに本腰を入れるのではないでしょうか。各方面から視察も来ており、手応えを感じています」と伴さん。

ところで、電気船はメンテナンスが不要。
オイルの入れ替えなどで油まみれになることもなくなり、「女性の船乗りが増えるかもしれない」と伴さんは話した。

「造幣局の桜の通り抜け」の最終日の22日まで、「あまのはし」による「お花見クルーズ」が運航されている。
約50分(ガイド付き)で料金は大人2千円、小学生千円。
【北村博子】

産経新聞より

投稿者 trim : 2013年04月07日 16:08