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2013年03月20日

“青い線路”はどこまでも続く


玩具メーカーのタカラトミー(東京)が展開する鉄道玩具「プラレール」の新シリーズ「プラレールアドバンス」が快走を続けている。

親子3世代にわたり愛 されてきた「プラレール」の青いレールをインフラとして活用。

そのレールの片側だけを走行し、一本のレールを複線として利用しする。

ロングセラーを続ける 主力商品の顧客層を広げることに成功した原動力は、開発チームの失敗を恐れないチャレンジ精神と商品化への執念があった。


「このプロジェクトは、半世紀の歴史を持つロングセラー商品を、もう一度ブレークスルーさせるというとんでもない挑戦だ」

平成22年3月26日。
東京都葛飾区のタカラトミー本社で開いた「プラレール」新商品の企画会議。
ビークル事業部プラレールグループの東宏幸グループリーダーは、開発チームを前に、力を込めてこう宣言した。

「プラレール」は6歳以下の子供たちの認知率が9割にのぼる玩具の「横綱ブランド」(東氏)だ。
毎年、確実な売上高を積み上げる主力商品のひとつだが、その半面、大きく飛躍することもない。
5年前にプラレールグループに異動してきた東氏は「青いレールという巨大なインフラを利用して、新しいビジネスを展開できないか」というアイデアを温めていた。

新しいビジネスのきっかけはすぐにやってきた。
東氏が異動してきた平成19年は、埼玉県さいたま市大宮区に鉄道博物館がオープンし、N700系新幹線が営業運転を開始するなど、鉄道ブームが再来した年だった。
東氏は「鉄ちゃんと呼ばれる“おたく”だけのブームではなく、親子で楽しめる身近な文化として市民権を得た」と直感した。

「プラレールアドバンス」の原型となるアイデアを発案したのは、入社3年目の若手社員だった。
プラレールグループ開発チーム(当時)の井上拓哉主任は企画会議で東グループリーダーからハッパをかけられ、「青いレールの片側を使って電車を走らせ、すれ違いができる玩具」のデザインをノートに書き記し、東氏に見せた。

実は、同じアイデアは平成10年にもチャレンジしたが、技術的な壁にぶつかり、実用化することはできなかった。
しかし、「当時と比べ、技術力は向上している」と東氏は信じ、「もう一回トライしてみよう」と決断した。

技術的な問題は、小さな電車のスペースに動力や電池などを押し込め、2台の列車の「すれ違い」をスムーズに行えるかだった。
図面上では、問題ないはずだったが、試作品を作ってみると、すれ違いの時にわずかに「カチッ」とこすれる音がした。

平成23年の鉄道の日(10月14日)に発売の照準を合わせており、その課題が見つかったときは半年を切っていた。
金型をつくるなど生産の準備を整えるにはタイムリミットぎりぎり。
「無理だ」。
開発チームのメンバーからはため息が漏れた。

このピンチを救ったのは、協力会社の技術だった。
アドバンスは、ギリギリまで“ダイエット”し、スリムなボディーを実現しているはずだった。
それでも、課題が見つかった1~2週間後、協力会社は図面を引き直し、アドバンスのボディをさらに1ミリダイエットさせたのだ。

その後、「アドバンス」は予定通り、発売にこぎ着けた。
タイの洪水が発生し、タイ工場の生産を代替地に変更するなどのトラブルに巻き込まれ、商品の供給難が続いたが、ファンは「アドバンス」を見捨てることはなかった。
「プラレール事業の売上高は、アドバンスなどの新規事業を上乗せする形で成長している」(東氏)。

「アドバンス」が人気を集めている背景について、プラレールマーケティングチームの檜垣真一郎係長は「小学校に入学し、プラレールを卒業した子供たちが、次の鉄道玩具である鉄道模型に行くまでには高いハードルがあった。それをつなぐ役割として、『アドバンス』のマーケットがあった」と分析する。

「アドバンス」の醍(だい)醐(ご)味は、列車がすれ違うときの迫力にある。
半世紀の歴史を持つ青いレールの幅を変えれば、容易に実現できた技術だが、その制約を守ったからこそ、高い商品価値を生み出したともいえる。

「レールセットを再利用できるのがうれしい」。
購入を後押しする母親たちの反応を耳にするたび、開発チームは大仕事を成し遂げた達成感を蘇らせている。
【小島清利】

プラレール
昭和34年に発売されたロングセラー玩具。
青いレールを自由につなげて線路をレイアウトし、3両編成の列車を走らせることが基本の遊び方。
発売当時から現在まで、青いレールの規格は統一されており、親子3代に親しまれている。
日本国内ではこれまで、累計約900種類、1億3,600万個以上を販売しているほか、最近では「プラレール」ブランドとして、アパレルや文具雑貨など500以上のライセンス商品も販売している。

産経新聞より

投稿者 trim : 2013年03月20日 11:33