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2012年08月29日

「廃棄物アート」


リサイクル(再資源化)やリユース(再使用)など限られた資源の有効活用が社会の関心事になって久しい。

芸術も、そんな時代の潮流に無関心ではいられない。

近年は廃棄物を素材にした芸術表現も注目を浴びている。
展覧会やワークショップ(体験型講座)なども盛んだ。
その第一人者たちの展覧会が東京で開かれている。


まるでおもちゃの山だ。
東京都千代田区外神田のアーツ千代田3331で開催中の美術家、藤浩志(ひろし)さん(52)の展覧会場に足を踏み入れると、そんな感想を持つはずだ。
床に並べられていたり、あるいは天井から吊るされていたり。
ほとんどはプラスチック製。
乱雑に置かれていたら単なるごみの山にも見えるだろう。
本展では同じ種類と色のものを集めて、整然と配列している。

藤さんは廃棄物アートの先駆者だ。
きっかけは、南太平洋のパプアニューギニアでの生活。
昭和61年から2年間、美術講師として暮らした。
同国には貨幣もあるが、地方では物々交換が主流だったという。
日本ではプラスチック廃棄物は単なるごみだが、この国では、それが宝のように大事にされていたという。
自然の中で暮らしている人たちにとって、「プラスチックは想像もできないくらいすごく価値のあるものだった」という。
現地の人たちは、容器に用いたり、室内の置物にしたり。
さまざまな用途に使われていた。

帰国後、藤さんはビニールやプラスチックの食品容器なども貴重に思えて捨てられなくなってしまった。
以来、家にそれらをため込み、ワークショップなどでアートの素材として廃棄物を利用し始めた。
最近ではプラスチックのおもちゃを寄せ集めて恐竜を作った「トイ・ザウルス」(平成22年)や、昨年は青森ねぶた祭で使用された廃材の針金と木材を使った龍のオブジェ「飛龍(ひりゅう)」(平成23年)など発表作品はいずれも大きな話題となった。
廃品が、藤さんの手にかかると、アートとなって蘇(よみがえ)り、廃棄物とは思えない作品の数々が来場者を楽しませる。

今月11~15日まで、ハラミュージアムアーク(群馬県渋川市)では、ワークショップが開かれ、親子らが廃棄物アートの制作を楽しむ光景が見られた。
廃棄物は銅線、シャンデリアの部品、試験管など約60種類。
参加者の親子ら約150人が工作に取り組んだ。
銅線は指輪に、シャンデリアのガラスの部品はネックレスへと姿を変えた。

廃棄物は、産業廃棄物中間処理業者のナカダイ(本社・東京)が提供した。
倒産などで工場から出た廃棄物の一部。
ほとんどが未使用という。

同社の前橋支店長、中台澄之(すみゆき)さん(39)は、廃棄物を使った工作の指導で忙しい。
平成11年、父親が営む同社に入社した中台さんは日々仕事をこなすうちに、「廃棄物を美しいと思うようになった」という。
「産廃業者として何かできるのではないか」と考え、2年前から工場を一般に開放。
工場見学会のほか電気製品の解体、廃棄物でのものづくりなどを行ってきた。
ユニークな取り組みが評判を呼び、美術館などでワークショップを開くようになった。

今年3月には「モノ:ファクトリー」を立ち上げ、ネットを通じて市民と廃棄物を結び付ける活動に取り組む。
中台さんは「熱心なファンに人気がある」と廃棄部品を写真に撮り、ポストカード(1枚150円)としてネットなどで販売している。

漂流物を使った作品で人気の2人組アーティストの「淀川テクニック」は12月、大阪府内で音楽とアートを融合させたイベント「SNIFF OUT2012」に出品する。
魚がモチーフの過去の作品に手を加えた“リニューアルアート”になるという。
「もったいない」精神が浸透してきた時代の空気を追い風に、“廃棄物アート”がますます勢いづいている。

藤さんの展覧会は9月9日まで(火休)。一般700円。
【渋沢和彦】

産経新聞より

投稿者 trim : 2012年08月29日 13:56