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2012年07月16日

ソユーズ打ち上げ

星出彰彦さんが長期滞在するISSは、人間が常時滞在している唯一の宇宙施設だ。

2000年に米露が長期滞在を始めてから一度も無人化せず、無重力を生かした科学実験や人類の宇宙進出に欠かせない医学研究などを進めてきた。

日本は2009年に完成した実験棟「きぼう」を足場に若田光一さん、野口聡一さん、古川聡さんが長期滞在を経験。

米スペースシャトルでの飛行を含む日本人の宇宙滞在期間は米露に次いで世界3位となり、確固たる地位を占めている。

一方、1980年代に計画が始まったきぼうは、関連経費を含め総額約7,500億円が投じられた。
今後も年間約400億円が必要で、巨費に見合う利用成果が常に問われている。

星出さんは滞在中、船内から宇宙空間へ容易に物資を搬出できるきぼうの特性を生かした超小型衛星の放出や、宇宙用の水槽を使ったメダカの飼育実験を予定している。
いずれも日本独自の試みで、きぼうの利用可能性を広げようとする模索の表れだ。

ISSは2020年までの運用が決まっており、日本は今後もほぼ毎年、飛行士を送り込む。
来年末からは若田さんが2度目の長期滞在を行い、日本人初のISS船長を務めるなど国際的な役割は高まっていく。

ただ、日本は2020年以降の有人宇宙開発の方針がいまだに定まっておらず、新型ロケットや宇宙船の開発にかかる期間を考えれば残された時間は少ない。

政府は今月12日、宇宙政策の重要方針を定めるため内閣府に宇宙戦略室や有識者会議を設置した。
しかし、会議はメンバーが未定で開催の見通しが立っておらず、司令塔機能の発揮にはほど遠いのが現状だ。

米国はすでに有人宇宙開発の軸足をISSから小惑星などの探査へ移し始め、欧州も歩調を合わせつつある。
きぼうで培った技術を継承するためにも、日本はISS以後を見据えた実現可能な戦略が求められている。
【小野晋史】

【プロフィル】星出彰彦
ほしで・あきひこ 昭和43年、東京都生まれ。
3歳から7歳まで米国で過ごす。
慶応大理工学部卒。
平成4年、宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構)に入りロケットの開発などに従事。
平成11年、宇宙飛行士候補者に選ばれ、平成13年に正式認定。
平成20年(2008)、米スペースシャトル「ディスカバリー号」に搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の船内実験室を設置。

■太陽活発期で放射線懸念

星出さんの長期滞在中の懸念材料は、約11年周期で活発化する太陽活動のピーク時と滞在時期が重なることだ。
フレアと呼ばれる太陽表面の爆発で宇宙放射線が増加した場合、活動が制限される可能性がある。

ISSは普段でも1日で地上の約半年分の放射線を浴びる過酷な環境だが、太陽の活発期にはさらに増える恐れがある。
2003年10月に起きた大規模なフレアでは、飛行士が船内の壁の厚い場所に退避する事態となった。

星出さんは船外活動も予定しているが、船外では体を守る遮蔽物が宇宙服だけになるため、船内と比べて10~40倍も高い放射線量を浴びてしまう。

ISSの放射線量は地上で監視されており、高い線量が予測された場合は飛行士の活動場所の制限や船外活動の中止、最悪の場合は緊急帰還も検討される。
ただ、実際に活動に影響したのは2003年の1回だけで、船外活動に影響したケースはない。

星出さんの被曝(ひばく)管理を担当する宇宙航空研究開発機構(JAXA)の佐藤勝主任開発員は「太陽の活動度は前回ピークの半分か3分の2程度で、さほど高くはないが、ハラハラしている」と明かす。
活発期は来年末に出発する若田光一さんの滞在時も続くという。

■初の船外活動 「宇宙五輪」も

星出さんは初飛行のときに自身が建設した実験棟「きぼう」に戻り、多くの科学実験に取り組むほか、自身初の船外活動にも挑戦する見通し。
滞在中は日米露の無人宇宙船が物資補給のため計4回ドッキングする予定で、多忙な宇宙生活となりそうだ。
船外活動では故障した配電装置を交換。
派手さはないが、ISSの安定的な電力供給に欠かせない重要な任務だ。
船外活動の前には減圧症予防の準備作業が必要だが、星出さんはこれを短時間で済ませる新方式を世界で初めて行うため、国際的にも注目されている。

ユニークな実験にも取り組む。
きぼうで超小型衛星を放出する際、容器を真空の船外にさらして密閉し、地上に持ち帰る。
いわば真空を詰め込んだ宇宙のお土産だ。
同様の実験は昨年3月、日本の提案により米スペースシャトルで行われたが、容器が割れて失敗しており、再挑戦となる。
また、滞在中はロンドン五輪が開かれるため、同僚飛行士らと“宇宙五輪”のイベントを行う可能性も。
星出さんは出発前、「何かやりたい。日米露の飛行士がいるので国別対抗か、チーム対抗か」と構想を膨らませていた。

産経新聞より

投稿者 trim : 2012年07月16日 11:06