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2012年06月05日

汚染水の浄化に新技術

放射性物質の除染作業が故郷・福島の復旧に重くのしかかっている。除染に携わる人たちの思いを通じて、課題を探った。

イネを刈り取った後のもみ殻を使って汚染水を浄化する。

東京電力福島第1原発の北23キロにある福島県南相馬市の会社が新たな技術を開発した。

社員22人の地質調査会社「庄建技術」。

「地質調査会社がなぜ除染をと不思議がられもするが、われわれは今後30年以上、この土地で水とつき合っていかねばならない」

鈴木克久社長(64)は袋からもみ殻をすくい上げた。
表面の細かい毛が放射性セシウムを吸着する。

東日本大震災と原発事故後、仕事は津波の到達場所を測量する下請け調査程度にまで激減した。
汚染調査に訪れた研究者を案内し除染の必要性を強く感じた。

「会社を育ててくれた地元へ恩返しがしたい」

除染で出た汚染土の仮置き場の確保が難航する中、限られた仮置き場を有効に使うためにもセシウムを吸着させることで汚染土の量を圧縮する「減容化」技術が求められる。
これまでヒマワリや藻、ジェル、ドライアイスなどが試された。

鈴木さんは当初、貝殻やヨーグルトを地面にまいてみた。
偶然、田に打ち捨てられたもみ殻が汚染水を吸い、茶色いあめ色に変色しているのを見つけた。
もみ殻を袋に詰め水路に2カ月沈めると、吸着材である鉱物ゼオライトの10倍、1キロ当たり2万2千ベクレルのセシウムを吸着し最大93%を除染できた。
有効な技術を探す県の実証事業に選ばれた。

事故後、除染技術はいや応なく進歩した。
多くは既存技術を生かした民間の知恵によるものだ。
福島県央の須賀川市にある堆肥会社「福萬産業」は従業員8人のうち5人が地元出身。
東北地方でパパイアを栽培するため平成8年に開発した温室暖房用ボイラーを改良し、除染用の炉「ファイヤーサイクロン」を試作した。
汚染土などを1,500度で燃やし、灰と、セシウムを含んだ煙とに分離。
煙を水槽にこしとり土を100分の1まで圧縮する。

会社は微生物の培養に使う大気が汚染され昨年4月、事業所のある山形県天童市へ移転を余儀なくされた。
小林功一社長(59)は「離れても気持ちは福島にある。地元企業の意地をみせたい」と話した。

環境省や県に報告された新技術は50件を超えるが、昨年12月に示された除染の指針に加えられていない。
多摩大学の井上一郎名誉教授(76)=先端技術論=は「基準や費用が定まらなければ市町村で実用化できない。除染を効率よく進めるため国は素早く対応すべきだ」と指摘する。

南相馬市は住民7万人のうち子育て世代を中心に3万人が街を離れた。
空き家が目立ち閉鎖した店も多い。
鈴木さんは「このままではいずれ街がなくなってしまう。セシウムをなくして初めて若者が戻る。故郷が復活できる」と話す。

もみ殻を使った除染は農家に広がり始めた。
鈴木さんは特許を取ったものの、無償で技術を教えている。

産経新聞より

投稿者 trim : 2012年06月05日 18:39