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2012年03月10日
廃蛍光灯リサイクルの流氷硝子館
ガラス工芸といえば北海道では小樽市が有名だが、オホーツク海沿岸の網走市には、エコ(エコロジー)とロコ(ローカルコンテンツ)をコンセプトにしたユニークな工房がある。
一昨年5月にオープンした「流氷硝子(がらす)館」は、廃蛍光灯をリサイクルしたガラスを原料に、流氷や澪(みお)といったオホーツクの自然や風土を表現した作品を作り出している。
網走川の河口にある工房兼店舗を訪ねると、北国の淡い陽光を受けて、オホーツク海のブルーを基調としたガラス製品の数々がきらきらと輝いていた。
網走港近くの倉庫のような建物に一歩足を踏み入れると、ぬくもりのある澄んだ世界が広がっていた。
ショーケースにはグラスやお皿、アクセサリーなどさまざまなガラス作品が並べられ、溶解炉やバーナー台などが置かれた工房も見通すことができる。
併設のカフェでコーヒーを頼めば、もちろんガラス作品のカップで出てくる。
「ここはかつて水産加工場だったところで、5年くらい前に手に入れて、ガラス工房にリフォームした。工房では吹きガラスなどの体験制作もできますし、ガラス以外にも、小清水町の手織りや清里町のニットといったオホーツク圏の工芸品を置いています」と、流氷硝子館を経営する軍司昌信さん(72)は説明する。
軍司さんは10年ほど前まで、子供服やおもちゃを扱う店を経営していた。
従業員を30人抱え、地元のショッピングセンターなどで多店舗展開していたが、「このままでは大手チェーンとの競争には勝てない」と事業転換を決意する。
そのことを札幌市内の大学に通っていた次男の昇さん(32)に伝えると、ガラス工芸をやってみたいという。
大学卒業後、昇さんは東京のガラス専門学校に通い、さらに沖縄県糸満市の琉球ガラス村で5年半の修業を重ねた。
こうして満を持して一昨年の5月、流氷硝子館をオープン。
エコピリカのブランド名で、さまざまなガラス作品を生み出している。
「エコピリカのピリカとは、アイヌ語で『美しい』のほかに『正しい』という意味もある。こういう時代には環境負荷の少ない材料を使うべきだと思っているので、ぴったりのネーミングだなと自負しています」と昇さんが話すように、エコピリカはまさにエコなガラス工芸だ。
原料は廃棄された蛍光灯のリサイクルガラスを使用。
近くの北見市留辺蘂(るべしべ)町に全国から排出された廃蛍光灯を処理している野村興産イトムカ鉱業所があり、ここから年間14トンを購入している。
通常のガラスの原料は、珪砂(けいさ)や石灰などほとんどが海外から輸入しているが、その輸送の際に発生するCO2を、廃蛍光灯を使うことで大幅にカットすることができる。
さらに普通なら原料を化学変化させるために1,400度の高熱が必要だが、廃蛍光灯はもともとがガラスのため1,300度と若干低めの温度ででき、燃料も少なくて済む。
「それに蛍光灯は柔らかい調合で作られていて、吹きガラスに向いている。すぐに固まらないので、加工しやすいんです。地球温暖化のせいか、オホーツク海の流氷が年々、少なくなっているのを間近に感じていて、何とか食い止めていかなければと思っている。こんな近くに蛍光灯のリサイクル処理場があるわけですから、ここでこういう作品を作るのは運命なのではないかなと思っています」と昇さん。
作品も地元=ローカルにこだわったテーマが多い。
「幻氷」と銘打ったシリーズは、グラスの表面に氷裂(ひょうれつ)という氷に割れ目が入っているように見える模様のある作品で、まさに流氷のイメージだ。
これは、ホタテの貝殻を砕いたものを水に溶いておいて、それをガラスが柔らかいうちに表面に付着させて作る。
ほかの作品と比べるとかなり手間がかかるが、日本でも昇さんだけの手法だそうで、全体の4分の1の売れ行きを誇る人気商品だという。
ほかにも、流氷のカケラが海に浮いているイメージの「流氷DECO」や、青い筋が幾重にも走っているさまを澪=水路に見立てた「澪」シリーズなど、オホーツクの豊かな海をテーマにした作品が多い。
「ホタテの貝殻は、地元で捨てられて山積になっていたものを使っています。ほかにも近くの川湯温泉の硫黄を溶かしてオリーブ色を出す実験などを繰り返していますが、地域に根付いたものをもっと使っていきたいですね。網走には湖も川も海もすべてある。いろんな水の現象を表現したいと思っています」
昇さんはさらにこの1月から、廃蛍光灯をリサイクルしたガラス原料の販売も始めた。
ほかの工房にも使ってもらって、「オホーツク圏にはエコなガラス製品を作っている工房がたくさんある、と評判になってくれれば」と力を込める。
跡継ぎのこんな情熱に接し、父親の昌信さんは「硝子館をやってよかった」と目を細める。
「以前の店は人が作ったものを売っていたが、今度のは自分で作って売るわけですからね。それにお客さんは全国にいる。香港や台湾からも旅行客がやってきて、体験制作を楽しんでくれる。ものの消費から時間の消費に移ったわけです」と笑顔を見せていた。
【藤井克郎】
産経新聞より
投稿者 trim : 2012年03月10日 21:02