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2012年03月11日

この1年の震災復興

東日本大震災が発生してから今日でちょうど1年。

震災を契機にスマートコミュニティーに対する意識が大きく変わり、新しい街づくりや地域コミュニティーなど地域社会の再構築への期待が高まっている。

菅直人首相(当時)は2011年4月1日首相官邸で記者会見をし、東北復興に向けた街づくりについて、初めて言及した。

被災を受けられた自治体の市町村長の皆さんと電話などでいろいろと御意見を伺いました。
そうした御意見も踏まえて、例えばこれからは山を削って高台に住むところを置き、そして海岸沿いに水産業、漁港などまでは通勤する。
さらには地域で植物、バイオマスを使った地域暖房を完備したエコタウンをつくる。
そこで福祉都市としての性格も持たせる。
そうした世界で1つのモデルになるような新たな町づくりを是非、目指してまいりたいと思っております。

菅元首相の東北復興に向けたエコタウン構想は、2011年4月11日に設置された有識者や被災地関係者で構成される「東日本大震災復興構想会議」で、具体策として取りまとめられた。

震災復興構想会議は2011年6月25日、復興ビジョンとなる「復興への提言~悲惨のなかの希望~(PDF)」を菅元首相に提出した。
本提言では地域づくりの考え方として、地域ニーズと長期展望を踏まえて、高齢者や弱者にも配慮したコンパクトな町づくり、再生可能エネルギーの活用、次世代技術などによる産業振興、地域の自給力と価値を生み出す地域づくりなどを挙げ、これらを通して新しい地域づくりのモデルを目指すとしている。

提言は復興に向けた施策として、地域経済活動の再生や、災害に強い交通・物流網の整備、再生可能エネルギーの利用促進やICTの活用などの経済活動を支える基盤強化を挙げる。
特に、電力の安定供給の確保やエネルギー戦略の見直しといった、原子力依存から再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱等)導入への移行を加速させる必要性を挙げている。

東日本大震災復興対策本部は、東日本大震災復興構想会議の提言を受け2011年7月29日、「東日本大震災からの復興の基本方針(PDF)」を決定した。
本方針には、被災地域の復興計画策定に当たっての国の取組みの全体像を示し、復興を強力に推進するための地域を限定した規制緩和や税財政上の優遇措置を認める「復興特区制度」の創設が明記されている。

政府の復興の基本方針には、「再生可能エネルギーの利用促進とエネルギー効率の向上」や「環境先進地域(エコタウン)の実現」についても方針が記されている。
政府は、東北の被災地などに、スマートコミュニティー、スマートビレッジを先駆的に導入することで、環境先進地域(エコタウン)の実現を目指すとしている。
また、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの活用、ICT(情報通信技術)や蓄電池などを活用した自立・分散型エネルギーシステムの導入による、先進的な循環型社会形成の促進を挙げている。

自立・分散型エネルギーシステムの導入は、復興プロセスの中で、新たな雇用創出にも寄与できるという。
環境省は、太陽光や風力などの発電機器製造や建設や運用メンテナンスなどで、1年当たり2.2万人の国内直接雇用を生み出すと算出している。
特に東北は産業派生効果が大きい電気機械産業の比率が全国と比べて高く、東北地域の産業成長に大きく寄与するとともに、エネルギー関連産業の集積地としての成長が期待されている。

政府は復興の基本方針に基づき、平成23年度補正予算で復興に資する施策を重点的に措置し、東日本大震災関係経費で総額11兆7335億円を計上している。
スマートコミュニティー関連では、自立・分散型エネルギー供給などに拠るエコタウン化事業に840億円、再生可能エネルギー発電設備の導入補助やスマートコミュニティーの導入補助などの再生可能エネルギー研究開発および関連施設の整備事業に1000億円を計上している。

政府の国際戦略会議は2011年12月22日、中長期的な政策指針「日本再生の基本戦略(PDF)」を決定(12月24日に閣議決定)した。
東日本大震災からの復興に加え、経済の活性化や分厚い中間層の復活などの施策を盛り込んでいる。
再生可能エネルギーの導入支援やスマートコミュニティーの構築、研究開発拠点の整備を通じ、産業の振興や雇用の創出を図るとしている。

また、政府は2012年2月10日、復興庁を発足し、本庁を東京、出先機関の復興局を岩手、宮城、福島3県の県庁所在市に設置し、沿岸部に各県2カ所の支所を配置する。
復興庁は、復興特区の申請、復興交付金の申請、まちづくり計画の相談など、被災自治体の要望を一元的に受け付け、復興に必要な政策の企画・立案や、被災自治体の復興計画の策定の支援などを行う。

これまでも全国各地でスマートコミュニティーのプロジェクトが進められていたが、その多くは小規模な実証実験にとどまっていた。
しかし震災後、東北の各都市の震災からの復興計画の策定に当たって、新たな街づくりに向けたスマートコミュニティーのコンセプトが相次いで盛り込まれた。
これらはこれまでに例を見ない壮大なスマートコミュニティープロジェクトであり、日本の将来を占うものとなる。

政府・自治体が取り組むスマートコミュニティー関連の取り組みの一例を紹介する。

一般社団法人新エネルギー導入促進協議会は2011年10月14日、地方公共団体などにおけるスマートコミュニティー構築にかかる事業化可能性調査を支援する「平成23年度スマートコミュニティー構想普及支援事業(PDF)」の採択結果を発表した。
東日本大震災からの復興を見据えた案件として、岩手県大槌町や釜石市、宮城県気仙沼市、福島県南相馬市などの提案が採択されている。

政府の内閣官房地域活性化統合本部は2011年12月22日、「環境未来都市構想」の対象地域として、計11地域の選定を発表した。
岩手県大船渡市や陸前高田市や釜石市、宮城県東松山市、福島県南相馬市などの6地域が選定され、スマートコミュニティーの実現に必要なこととして、地産地消型や分散型のエネルギー型社会、産業復興や社会インフラの革新的な進歩などが挙げられた。

一般社団法人新エネルギー導入促進協議会は2012年2月14日、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の3県でスマートコミュニティー導入促進事業となる「スマートコミュニティー・マスタープラン策定事業」と「スマートコミュニティー構築事業」の公募を始めた。
民間から事業案を公募して3月に認定、9月に採算性を重視したプランの提出し、10月から設備導入や運営に対して3分の2の補助を行う。政府が定めた被災地の「集中復興期間」である2015年末までに10カ所程度でスマートコミュニティーの構築を目指すとしている。

I.スマートコミュニティー・マスタープラン策定事業(補助率:定額)
スマートコミュニティーのエネルギー管理システム導入を中心としたスマートコミュニティー・マスタープランの策定・実現に必要な費用を補助

II.スマートコミュニティー構築事業(補助率:2/3以内)
「スマートコミュニティー・マスタープラン策定事業」の成果となるマスタープランの中から、次世代エネルギー・社会システム協議会での評価を受け、認定されたプランに基づき導入されるシステムおよび機器、プロジェクトマネジメントに必要な費用を補助

こういった状況の中、大手各社が「東北復興推進室」や「スマートシティ推進室」を新設するなど、東北復興におけるスマートコミュニティーへの事業強化に向けた体制整備を急いでいる。

スマートコミュニティーの実現には、再生可能エネルギーの変動にあわせて需給バランスを調整し、地域内の電力の供給量を最適化するCEMS(コミュニティー・エネルギー・マネジメントシステム)による電力の「地産地消」の実現がポイントとなる。

例としては、下記による地域内の自立型・分散型エネルギーシステムの実現が期待できる。

・防災拠点に再生可能エネルギーと蓄電池、コジェネを整備
・地域のビルや家庭の単位でも、再生可能エネルギー、蓄電池等を活用
・コントロールセンターを設置し、地域の需給バランスを調整


スマートコミュニティーのイメージ図は、以下のとおり。


岩手、宮城、福島の3県の沿岸部で、高台や内陸などへの集団移転が27市町村で計画されている。
生活基盤を取り戻し、低炭素社会と安全安心で高齢者に優しい快適な生活が送れる環境の実現には、制度の見直しや規制緩和も含めた街づくりのフレームワークをつくり、社会システムの全体最適化を図っていくことが必要となる。
東北が震災から立ち直り、新しい地域づくりのモデルとなるために、住む人々の「生活の質」の向上と持続可能な社会をつくれるように地域が主体的に取り組める環境を産官学で支援していくことも重要となる。
そのためには住民との対話を重ね、これまで以上に広範囲に渡る利害調整や多種多様なステークホルダーとの調整をしていく必要もあるだろう。

東北復興に向けたスマートコミュニティーの構築は、復興における新たな街づくりのフレームワークづくりや社会システムの最適化だけでなく、今後の日本の地域社会の街づくりのあり方を占う上でも重要な取り組みとなるだろう。
【林雅之】

用語解説 スマートコミュニティー:
エネルギー効率の向上や、行政サービス、交通機関、市民のライフスタイルの転換など、複合的に組み合わせたICT(情報通信技術)とエネルギーの融合が生み出す次世代環境配慮型のコミュニティー。

ITmedia エンタープライズより

投稿者 trim : 2012年03月11日 22:45