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2011年01月23日

ブタ放牧で耕作放棄地を再生


農家の高齢化や後継者不足によって各地で増え続けている「耕作放棄地」。

福島県は総面積が2万㌶を超えており、「20年間全国ワースト1」と不名誉な記録を更新している。

こうした現状を少しでも改善しようと、郡山市の民間農園が「ブタの放牧」を行っている。

野菜くずを使った「循環型農業」、ハムなどの加工による「農業の6次産業化」と絡めた“一石三鳥”の取り組みだという。
果たして、ブタは荒れ地でどんな底力を発揮しているのか。

阿武隈山地の一角、郡山市田村町川曲地区はアップダウンが激しい中山間地。
“ラクダのこぶ”という表現がぴったりだ。
平地は狭く、傾斜地の畑も目立つ。

「降矢(ふるや)農園」の降矢敏朗社長、セツ子取締役の夫妻はこの地で約30年間、良質な地下水を生かしてカイワレ大根などの水耕栽培を続けてきた。

この農園が一昨年10月、体重30㌔になる生後2カ月半の子ブタを24頭仕入れ、約3,000平方㍍の遊休水田で放し飼いを始めた。
いまは借地も含め約1㌶で30頭を育てている。

運動量と食欲を高めて、「健康でおいしいブタ」を育てる放牧養豚。
県内では初の試みだ。
だが、降矢社長にはもう一つ、大きな理想があった。
荒れ果てた里山の再生だ。

「牛は草しか食べないがブタは食欲旺盛で雑草を茎や根まで食べ尽くす。耕作放棄地を掘り起こしてくれるんです」

電線で囲われた放牧地内を眺めると、雑草が消え、黒土があらわている。
将来は牧草地にして牛を飼いたいという。
「こんなヨーロッパのような風景にしたいですね」。
降矢社長はカレンダーの写真を示しながら熱く語る。

農水省が昨年11月に公表した「2010年世界農林業センサス」によると、福島県内の耕作放棄地は22935㌶で全国最大。
5年前の前回調査より3.2%拡大した。

同調査によると、福島は農家など経営体の数は東北最多だが、平均耕地面積では最小だ。
福島県で耕作放棄地が多いのは、「かつて中山間地の暮らしを支えたクワや葉タバコが衰退し、虫食いのような遊休地が多く残った」(県農村振興課)ままだからだ。
県は転作や緊急雇用対策を活用した開墾を促しているものの、放棄地拡大のペースに追いついていない。

降矢社長は「農地が荒れると虫の巣ができて近隣の田畑に迷惑がかかる」と懸念する。
傾斜地で主にクワを作っていた川曲地区も、いまや畑の9割が耕作放棄地だという。
このため、4年前から地域内で対策に乗り出したが、「実際は雑草取りくらいしかできない」のが実情だ。

放牧養豚には「手間がかからない飼料米の栽培を促し、エサの一部に取り入れたい」との思いもある。


「おーい、おーい」

社長夫人の降矢セツ子取締役の呼び声が山間にこだまする。
しばらくすると、何頭ものブタが傾斜を駆け上がって集まってくる。

お目当ては、水耕野菜の根や豆など、農園で大量に発生する野菜くず(残さ)だ。
背脂を作る養豚用の穀類エサを3割に抑え、残さのリサイクルで「循環型農業」を進めている。
放牧養豚の二つ目のカギだ。

「冬場は軽トラック1台分に及ぶ凍った残さを割って食べさせる」(降矢セツ子取締役)など苦労も多いが、群れの中で強いブタにエサの摂取量が偏らないように、子豚の導入時期をずらすなど工夫を重ねているという。

「畜舎養豚の2倍」という生後1年間をかけて育てたブタは100㌔を超え、やや筋肉質で健康そのもの。

昨年春、郡山市内のホテルで試食会を行い、シェフから「歯応えがほどよく肉の味も濃い」と“お墨付き”を得た。
だが、背脂不足で出荷規格に合わないなど、枝肉として採算を得るには難題も多いという。

降矢セツ子取締役は「私たちの思いを伝えるには加工しかない」と高級ハム、ウインナーづくりに踏み切った。
「肉の質に自信はある。ギフト用なら高価格でも受け入れてもらえる」と考えたからだ。
三つ目の狙いとなる農業の「6次産業化」だ。

加工で定評がある伊豆沼農産(宮城県登米市)に製造委託して昨年末、ギフトセット「あぶくま高原 里の放牧豚」を売り出した。

ウインナーを試食すると「パリッ」という歯切れが心地よく、臭みが感じられない。
3,150円の限定300セットは口コミだけで完売した。

起動に乗り始めたばかりの放牧養豚で、地域や農地をどう変わっていくのか。
ブタたちの活躍はさらに注目を集めそうだ。
【中川真】

産経新聞より

投稿者 trim : 2011年01月23日 14:55