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2010年11月21日

「まさかニシンが戻ってくるとは」

鉄鋼各社が、製鉄工程で出る副産物「鉄鋼スラグ」を活用し、海中の藻場や森林再生などの事業を強化している。

スラグに含まれる鉄分が海藻の生育を促したり、土壌改良などによる生態系回復や二酸化炭素(CO2)削減につながる効果を持つ。

スラグはこれまで道路基盤材などに活用するケースが多かったが、公共事業の削減によって新たな用途拡大を迫られている事情もある。

自然環境の回復にも利用できるため、各社とも自治体や漁協に売り込み、市場開拓を図っている。

「まさかニシンが戻ってくるとは」

北海道西部の増毛町がわき上がったのは数年前。
かつてはニシンの水揚げで活況をみせていた同町だが、沿岸部で海藻が死滅する「磯焼け」が広がったこともあり、20年以上にわたってニシンが姿を消していた。

「豊かな海を取り戻したい」との地元の声を聞いた新日本製鉄は、海の鉄分不足に着目。
鉄分は光合成の促進や葉緑素の合成に必要な栄養素で、海藻の生育にも必要だ。
しかし、森林の伐採やダム造成などで、腐葉土などに含まれる鉄分が河川から海に流れ込まなくなったために磯焼けが発生したと考えた。

スラグは高炉で鉄を作る際に生じる副産物で、微量の鉄分を含んでいる。
そこで、室蘭製鉄所(室蘭市)などで発生したスラグを活用し、2004年から海岸にスラグと堆肥を袋詰めしたものを埋め込む実験を始めたところ、約半年で海藻が根付いた。
その後も生育範囲が拡大し、ニシンの姿を確認できるようになった。
鉄分を供給することで海藻や植物プランクトンが増殖、漁場の回復にもつながることが実証できた。


この結果を受けて新日鉄は現在、全国19カ所の海域で同様の実験を行っており、昨年4月からは総合技術センター(千葉県富津市)に水槽を設け、海苔の成長に及ぼす効果の検証も始めた。
今年9月には全国漁業協同組合連合会の安全認証を取得したことで、同社は本格的な事業化に乗り出した。

JFEスチールはスラグを使ったサンゴ礁再生に取り組んでいる。
破砕したスラグにCO2を吹き込み、固化させてブロック状に加工。
主成分はサンゴと同じ炭酸カルシウムからできており、サンゴが着床すると自然の岩礁よりも早いスピードで成長するという。

また、神戸製鋼所はスラグとコンクリートを混ぜてブロック化した魚礁を開発。
昨年7月から瀬戸内海で実験を開始し、今年5月から神戸空港などで同様の実験を進めている。
同社は4月に「鉄資源プロセス開発室」を設立。
スラグなど副産物の用途拡大を図る。


実は、藻場が再生すれば、CO2削減効果も期待できる。
海藻は陸上植物よりもCO2を吸収する能力が高いからだ。
新日鉄の試算によると、5,000平方㍍の藻場再生で年間88㌧のCO2削減が見込まれるという。

海藻の大量育成によるバイオ燃料生産も検討課題だ。
スラグを活用して海藻を生育させ、それを原料としてバイオ燃料を生産して工場で使用すれば、リサイクルシステムが完成する可能性もある。


スラグの活躍場所は海だけではない。
住友金属工業は、樹木伐採によって鉄分不足となっている森林にスラグをまき、樹木の成長を促す実験を島根県などで始めている。
酸性化した土壌を改良する効果があるという。

温暖化抑制の有力技術として確立できれば、スラグは「夢の新素材」となる。
海洋や森林環境の回復だけにとどまらないスラグ活用の将来性に期待が高まっている。
【川上朝栄】


産経新聞より

投稿者 trim : 2010年11月21日 13:24