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2010年10月27日
カルビーが小売店運営
10月21日付日本経済新聞企業2面に、「カルビー、小売店運営3年で15店、限定品など販売ニーズ探り開発に活用」という3段19行の比較的小さな記事が掲載された。
しかし、これは単なる「アンテナショップ開店」というだけでない、大きな動きが感じられる。
記事によれば、カルビーは、アンテナ店としての役割を担うという店舗を、来年に都内で1号店を開業し、3年以内に繁華街や商業施設に約15店を出店、京都などの地方都市も計画しているという。
店舗規模としては、広さ平均50~70平方メートルであるというが、1店当たり売り上げは初年度は1億円を見込むということなので、かなりアグレッシブな計画であることが分かる。
店舗規模をイメージするなら、コンビニエンスストアの平均店舗面積は134.7平方メートルなので(商業統計より)、だいたいその半分くらいの規模であると考えればいい。
品揃えは、北海道だけで限定販売するスナック菓子「じゃがポックル」など約25種類の地域限定商品を中心に売る。
店舗ごとの限定品を開発するほか、全国のスーパーなどで売る新商品を発売前に並べる。店内調理したポテトやドリンクも提供する。
「現地でしか買えない」「本来、まだ買えない」という商品を買い求めようとする購入客は、情報感度が高く、商品カテゴリに関心度が高い層であることは間違いない。
そうした顧客の購買行動、商品の売れ行き、意見の収集をすることがまさにアンテナショップとしての役割である。
もう1つポイントになるのは「店内調理したポテト」という点で、その材料は、カルビーの子会社でジャガイモの安定供給を図るために1980年に分離独立した、原料部門のカルビーポテトが担うと思われる。
同社は菓子原料だけでなく1996年から小売向け青果用ジャガイモの販売も開始しており、袋詰めのパッケージに「カルビー」と書かれたジャガイモをスーパーで目にされることもあるはずだ。
店内調理メニューまで販売することで、菓子に加工される前のイモの味わいなどに関する顧客の声を収集し、広範に製品開発のヒントを収集しようという意図も見える。
ただ、カルビーが狙っているのは、「情報収集機能」だけではない。
「情報発信機能」も重要視しているのは間違いない。
アンテナショップに集まる、情報感度が高く、商品カテゴリに関心度が高い層は「口コミの中核」ともなる。
mixiやFacebook、Twitter、もしくはブログによる口コミ情報発信が期待できる。
店内調理されるジャガイモメニューを通じて、カルビーの「原材料へのこだわり」も訴求されるだろうが、それが話題になれば、ブランドへの好感度が増すだろう。
地域限定商品が話題になれば、当該地域の販売に寄与するだけでなく、お土産需要も喚起されることになる。
また、発売前商品が話題になれば、発売前の期待醸成というCM以上の告知効果も期待できる。
そもそも、昨今はCMの注目度も低下していることから、口コミの期待が高まるのは当然だ。
また、数多く発売される新商品を1つ1つCMに注力していくより、事前に口コミで話題になった商品に後追いでCM投下量を増やした方が効率的だ。
もう1つ狙いがあるはずだ。
それは、販売チャネル対策である。
コンビニやスーパーなど、大手流通グループの店舗ではPB(プライベートブランド)商品が棚の占有率を高めている。
自社商品がPB商品に棚を奪われる脅威にさらされている。
棚を確保するためには、まずは消費者に購入してもらい、売れ筋から外れないことと、それ以前に、CMの投下によって「盛り上がり感」を出して、チャネルの仕入れ担当者にアピールすることだ。
スナック菓子では、競合の湖池屋が阿部サダヲが演じる異色のCM「コイケ先生」シリーズで「湖池屋のポテトチップス」を訴求している。
それを追って、カルビーも女優・蒼井優、プロレス選手・タイガーマスク、お笑いコンビ・ジャルジャルらをキャラクターとして、ポテトチップスを食べる瞬間の表情をハイスピードカメラ(高速度カメラ)でとらえた「ハイスピード・パリ!」シリーズを放映している。
いずれも新商品ではなく、ポテトチップスという基本商品でブランドアピールをしているのは、チャネルへのアピールという側面が高いといえるだろう。
CMでチャネルへのアピールはできても、前述の通り昨今、消費者のCMへの関心度低下は否めない。
そこで、ネットでの口コミ拡大による消費者の指名買いに期待が高まる。
15という店舗数は、単なるアンテナショップとしてはかなり大規模であるといえるだろう。
ともすれば、数を多くすることは通常の販売チャネルでの購入とカニバリ(共食い)を引き起こし、チャネルからの反発を起こしかねない。
しかし、口コミの規模拡大を狙うのであれば、消費者の接触ポイントを拡大する必要がある。
そのギリギリのラインが15店舗という判断なのではないだろうか。
また、「京都」という都市は、修学旅行の若者を中心として主要ターゲット層と効率的に接触できる選択であると言えるだろう。
15店舗という規模のアンテナショップで、年間1億円の売り上げで運営しようという意図は、カルビーが「ニーズ発掘機能」と「口コミ発信機能」という情報の受発信拠点を、CMなどのマーケティング・コミュニケーション予算に全額アドオンして運営するのではなく、自主独立して機能する「仕組み」として位置付けようという意図も感じられる。
日経新聞の小さな記事から推測すると、カルビーは急速に変化する消費者のニーズ、販売チャネルの環境、コミュニケーションの効果・効率といった大きな問題に今回の施策でチャレンジしようとしていると思われる。開業日を迎えてこの目で見られる日が待ち遠しい。
【金森努】
Business Media 誠より
投稿者 trim : 2010年10月27日 17:09