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2009年11月08日

秋芳洞、エコの光LEDに活路

国内最大のカルスト台地「秋吉台」の地下で、幻想的な世界を織りなす大規模な鍾乳洞「秋芳洞」(山口県美祢市)。
学術的価値の高さから国特別天然記念物に指定される一方、中国地方屈指の集客力を誇る観光資源でもある。

しかし、この名勝で深刻な問題になっているのが洞内の“緑化”。

観光用の照明が、本来存在しない植物を育ててしまっているのだという。

「環境」と「観光」という一見、相反する命題に悩んできた地元・美祢市は今年度、洞内の照明を“エコの光”として注目されるLED(発光ダイオード)に全面的に切り替える事業に着手する。


「太陽光が届かず、暗闇が延々と続く秋芳洞の中は、気温は年間を通じて17度前後で一定。このため、植物は育たず、洞内だけに住む固有の生物が50種以上も見つかっている。独特の貴重な生態系が形作られているんですよ」


秋吉台、秋芳洞の自然を見守り続けてきた庫本正・秋吉台科学博物館名誉館長が力説する。

「シコクヨコエビ」「アキヨシシロアヤトビムシ」など洞内固有の生物は、目が退化し、体が透き通っているのが共通した特徴。
これらは洞内だけに生息し、数種類のコウモリだけが洞内外を行き来している。

「数十万年の歳月をかけてできたこの環境を一変させたのが、観光用に設置された照明なんです」。
庫本さんは、心配そうに語った。

古くから「滝穴」としてその存在が知られていた秋芳洞は、明治42年に観光用の鍾乳洞として公開を開始。
現在では、通路を照らす足下灯と、「百枚皿」や「黄金柱」などの見どころを照らすスポット灯を合わせ、計155基の蛍光灯や白熱灯、水銀灯などが取り付けられている。

明かりが照射された鍾乳石や岩肌には、藻類やコケ、シダなどの植物が繁殖して緑色に覆われたり、黒ずんだりした個所が見られる。
本来、洞内に育つはずのない植物が入り込み、電灯の明かりで光合成をし、成長しているというわけだ。

「景観を損ねるだけでなく、植物の根が岩などを傷める恐れも」と庫本さん。
長い期間をかけて育まれてきた秋芳洞固有の環境が、危機にあるのは確かなようだ。


こうした状況に対し、「次世代の光として注目されているLEDを活用できないか」と考えたのが、県産業技術センターの電子応用グループだ。

平成19年度に研究を始めた同グループは、同年10月~20年10月の1年間、洞内に設置された蛍光灯の1つを、試作したLED照明に取り換えて植物の生育状況などを調査。
この結果、LED照明は、付近の蛍光灯に比べて植物の生育を15%抑制したことが分かった。

「さらに、消費電力量は蛍光灯の半分、発熱量は3割低減できた」と、川村宗弘・グループリーダーは説明する。

別の実験では、緑色光が光合成を抑制する効果があることも知られている。
「LEDは波長のコントロールが簡単。今後、緑色を含みながら、人の目にも違和感のない光を作り出したい」と川村さんは意気込む。


こうした取り組みと並行し、秋芳洞を管理する美祢市は、洞内の照明をすべてLED照明に転換する方針を打ち出した。

「現状では、照明が洞内環境に悪影響を及ぼしているのは明らか。さらに既存の機材は老朽化が進み、何らかの変更、改修が必要だった」と市総合観光部。
「緑化の抑制だけでなく、洞内温度の維持や、電力使用量の削減などにつながる上、従来の照明に比べてデザインの自由度が高いというのも魅力的」と期待する。

観光用に公開されて今年で100周年を迎えた秋芳洞。
「自然保護」と「観光振興」の共存に挑む年としても、大きな節目となりそうだ。

「秋芳洞」
もともと海の中でサンゴ礁として誕生し、その後石灰岩が発達したカルスト台地になったという秋吉台。
そこからしみ込んだ地下水の浸食により地下に形作られた450以上もの洞窟の中で、総延長10㌔と東洋屈指の規模を誇る鍾乳洞のこと。
古くから「滝穴」としてその存在が知られていたが、その一部を明治42年に観光用として公開。
大正15年に当時皇太子だった昭和天皇が訪問された際、「秋芳洞」と命名。
平成17年には秋芳洞を含む秋吉台の地下水系がラムサール条約に登録された。

現在、洞内約1キロが観光コースとして開放され、約40分~1時間で見学できるという。【山口支局 小林宏之】


産経新聞より

投稿者 trim : 2009年11月08日 17:11