2009年10月14日
「トトロの家」跡地
住宅密集地の真ん中に、花と緑に囲まれた小さな赤い屋根、白い窓枠のハイカラな一軒家。
そんなたたずまいが宮崎駿監督のアニメ映画「となりのトトロ」を思わせると親しまれ、今年2月に不審火で全焼した杉並区阿佐谷北の民家跡地が、宮崎監督のデザインで、当時の面影を残した公園に生まれ変わることになった。
住人だった近藤英さん(85)は「宮崎さんのデザインで公園になるとは本当にうれしい」と話す。(安岡一成)
「トトロの家」は昭和初期に近藤さんの叔父、謙三郎さんによって設計されたといい、近藤さんは昭和47年から暮らしていた。
約70平方メートルの洋風建 築の木造平屋で、庭にはクヌギやキンモクセイの巨木のほか、ツバキやサルスベリなど約50種類の草木が生い茂っていた。
春にはバラが咲き乱れ、近隣住民か らは「バラ屋敷」と親しまれていた。
宮崎監督は、東京西郊の古き良き家を訪ねてつづった著書『トトロの住む家』で、「中を窺(うかが)うと、本当に輝くばかりのみどりの庭である」などと紹介。
全国の宮崎ファンが訪れるようになった。
しかし、平成19年夏、近藤さんは転居しなくてはいけなくなり、家は取り壊される可能性が強まった。
近隣住民らはまもなく保存運動を開始。
区に保存を求める署名が全国から6,380人分集まった。
区は周辺の土地と家を買い取り、公園にすることを決定。
設計図も完成し、今年4月に着工予定だった。
ところが、2月14日未明、家は不審火で全焼してしまう。
「焼け跡を眺めていると複雑な思いでね。ただ手を合わせて拝んでいた」。
失意の近藤さんのもとに「建て直すなら寄付したい」という申し出が殺到した。
火事を知った宮崎さんも新しい公園のデザインを引き受けてくれた。
7月、宮崎さん直筆のデザイン画が区に届けられた。
大きなコブシの木がシンボルとして植えられ、トイレの屋根には、元の家に使われていた赤い瓦を再利用する。
ベンチは1脚のみで、お年寄りが座りやすいように石垣を置く…。
「緑をできるだけ生かし、あるものはできるだけ残したい」。
図面には宮崎さんのこだわりがちりばめられていた。
区は来年夏ごろの完成を目指している。
「子供が跡地のそばを通るときにトトロの歌を歌ったり、お母さんが『ここにトトロの家があったんだよ』って教えていたりしているの。トトロの家はなくなったけど、トトロを生んだ宮崎さんがデザインしてくれた公園は、きっと未来への贈り物になるわ」
近藤さんは感慨深げに語った。
産経新聞より
投稿者 trim : 2009年10月14日 10:26